ユグドラシル編
第9話 知りたいと望んだこと
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ってことじゃないか!)
光実の傍らに貴虎がしゃがみ、光実の背に掌を当てた。びくっ、と体が勝手に跳ねた。貴虎はそれを拒絶と取ったらしく、手をどけた。
「あんな……あんなことをずっと、裕也さんにしてるの……?」
「彼を人間に戻すためだ。戻れなくなったらもう処分するしかない」
光実は今までやってきたことを思い出した。この手で。この両手でインベスを何体屠った? 何人――殺した?
「裕也さんは、人間に戻れるの……?」
討たねばならない怪物が人間だったなどあんまりだ。せめて希望はないのか。
「五分五分だ。“森”のインベスにはあの血清は効かなかった。彼が初めてだ。ここまで碧沙の血清が効いたのは」
「ちょっと、待って兄さん。碧沙の、って」
「インベスになった人間を戻すための血清は、碧沙の血から造られているんだ。ここに漕ぎ着けるまで1年かかった。凌馬に言わせれば破格の速さだそうだ」
やっと繋がる。中学生になってから増えた定期検診。貧血のような症状。虚弱体質。全ては碧沙の体を調べて、対インベス化の解毒剤を造るためだったのだ。
角居裕也という存在は、インベスが人であることを証明し。
呉島碧沙という存在は、人をインベスから守る希望を宿している。
これらを公表すれば、沢芽市どころではない、国中、世界中がパニックになる。薬になりえる碧沙を巡って争いが起きる。
光実は貴虎に連れられて部屋を出た。
「……理解できたよ。インベスが人間で、今、僕らの街はヘルヘイムの侵略を受けてるんだね」
「そういうことだ。――正直、お前にこのことを知らせるのはもっと後で、と思っていた。だがお前は碧沙のために知ることを選んだ。光実。ユグドラシルに加われ。もし俺が間違えても、これからはお前が碧沙を守ってやれ」
碧沙。いつも照れくささが邪魔して充分に甘えさせてやれなかった、自分と貴虎の妹。自分たちの宝物。
光実は貴虎を見上げて肯いた。
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