第五章
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今は不思議に思えるんだ」
彼は神についても言及してきた。
「今まで私は教会に行くだけだった。それだけだった」
「それだけでも充分だと思いますが」
信仰心のない人間もまた多い。それが哲学である場合もある。無神論者というやつである。彼はそこまではいかなかったがかといっても信仰心のある男でもなかった。だが今それも揺らいできていたのである。全てはナンシーへの想いからであった。それが何もかもを変えていたのである。
「それでもな」
ジョゼフは言う。
「今は思う。彼女と同じ神を信じたい」
「ナンシー様は国教会でしたね」
「ああ、幸いなことにな」
実はイギリスの宗教問題というのはかなり奥が深い。カトリックとプロテスタントの問題であるがこれは古くテューダー朝からの問題だ。あの好色で浪費家で知られるヘンリー八世が自身の離婚問題からローマ=カトリック教会と問題を起こしてそれで国教会を設立してからメアリー一世、エリザベス一世の頃も続いた。カトリックのメアリー一世はプロテスタントを弾圧しその有様は夫であったスペイン太子フェリペ二世も顔を顰める程であった。彼はカトリックの擁護者ハプスブルク家の者でありカトリックの牙城スペインの主であったがあくまで政治家であり過度な弾圧は好まなかった。実際にはスペインは極端な弾圧を好まずむしろドイツの同胞、神聖ローマ帝国の方が酸鼻を極めたとされている。もっとも全体的に欧州の異端審問や拷問は日本人から見れば理解の範疇を超えたものであるのだが。日本人が厳密な取調べと捜査の後判断を下し然る場合にのみ処刑するのに対して当時の欧州は違っていたのだ。宗教的ヒステリーに長い間苛まれていたのである。
その宗教的ヒステリーがイギリスも覆っていたのだ。多くの血が流れ政争の道具となった。清教徒革命の後もカトリックに対して慣用的な王とそうでない議会の間で対立もあった。それからもアイルランドやスコットランドを中心として長い間対立の要因となっている。今でもそれが残りアイルランド問題の根幹の一つになっているのである。ジョゼフは今それを言っているのである。
「これが神の御加護か」
「カトリックならどうされていました?」
「構うものか」
しかしそれで諦める彼でもないのだ。
「その場合でも同じだ。私はナンシーと同じ神を信じる」
「ナンシー様を国教会にですか」
「そうしただろうな、今までなら」
自分でもそれを認める。
「しかし今は。わからない」
考える目で述べた。
「私がカトリックになっていたかも知れない」
「流石にそれで勘当はされないでしょうが」
「それでも揉めたな」
「おそらくは」
これは容易に想像ができた。イギリス貴族の主流は国教会だ。そうでなくてはまずいという空気が長い間存在していた。彼もそれはわかっている。しかし
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