参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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顔も見ていない声も聞いていない上にかの方は特徴もない尼の衣を羽織っておられたので、どの尼君様、とは言えないのです。曖昧で申し訳ないのですが、きっと尼君様の中でも一番元気な尼君様だろうと思うのです。お引き合わせ願えませんか?」
予期しない展開に、あたしは盛大に狼狽えた。
なっ、なっ、なにを言っているのよ高彬は!
断って!断って〜惟伎高!お願い!
「高彬殿。おわかりだとは思っておりますが、尼は仏につかえる身ですよ」
「ああ、申し訳ありません。わたしの言い方が悪かったようですね。やましい気持ちはありません。庵儒殿が懸念されるようなことでは全くないのです。実はその尼君様が、かの前田の姫に似ていまして」
「前田の…」
あーあーそりゃあ似てるでしょうとも!なんてったって本人だからね!
あたしは頭を抱えた。
あ、侮れないわ高彬…!伊達に隣家でずっと一緒に育ってきたわけじゃない。確信していないとは言え、動作だけであたしだとわかるなんて!
ああ、逃げなきゃ良かった…!そうよーよく考えたら普通の大人しい尼が躊躇無く小柴垣に飛び込んで脱兎の如く逃げるもんですか…!普通の人なら、驚いたにしても、せいぜいが声も出せず蹲るくらいだ。逃げず騒がず、おしとやかに震えているのがあの場では正解だったのだ。あああ、やってしまった…。
しかし済んだことを嘆いてももう手遅れ。こうなったら最後の砦、惟伎高に全てを託すしかない。
断れ〜突っぱねるのよ〜惟伎高〜!じゃないとあんたの晩ご飯は天井裏を走りまわってるネズミの丸焼きにしてやるからね〜!
あたしは壁越しに惟伎高に念を送る。届け、この思い!
「前田の姫にと言われれば、断ることは出来ますまい。本人には、聞いてみるだけ、聞いてみましょう」
しかし無情にも応とこたえる惟伎高の声が聞こえた…。
ぎゃー惟伎高の馬鹿ー!
あたしの(怨)念は呆気ないほど通じなかった…。あたしはがっくりと肩を落とした。
「そうおっしゃると言うことは、尼君のお心当たりが?何と言う御名なのです、その尼君様は」
ネズミをどう捕らえてやろうかと頭を巡らせていたら、高彬がまた爆弾発言をした。
あたしは青くなった。
あたしは、一度だけ、惟伎高に真名を伝えたことがある。本当にたったの一度きり。でもきっと、惟伎高は覚えている…。
ルライ、だなんて惟伎高が馬鹿正直に言ってしまえばそれで終わり、だ。
万事休す、だわ。あた
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