参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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たしも束の間、止め処なく散る桜に思いを馳せる。
墨を溶かしたようなとろりとした夜闇の中、月の頬をすべるようにはらりはらりと落ちる桜…。
あたしは、そう、いつだったか、こんな桜を見ながら、胸が潰れるような心持ちで、誰かが来るのを待っていた気がする。
そうしてまたいつか、こうしてただ桜を眺めながら、誰かを待つ気がする…。
なんだかそんな気がして、あたしは暗闇に目を凝らしたけれど、桜の向こうには何も見えなかった。
「…本当にお久しぶりです。義兄上は恙ないようで…安心致しました」
室内の会話が再開されたと思ったら、不意に高彬の声に親しみが滲んだ。
「ええ、おかげさまで。貴殿は…憔れましたか」
惟伎高が言ったその言葉にあたしはどきりとする。
憔れた…そうか、高彬憔れたのか…。
「はは、わかりますか?お恥ずかしい」
「話は、聞こえておりますよ。親しくしていた前田の姫が亡くなられたと…。先ほどこの寺に急いだとおっしゃっていましたが、そのせいなのでしょうか」
「流石道に入られた方は違うようです。隠していても仕方が無いですね。そうです。前田の姫は、わたしが共に生きると誓った人でした…。正直なところ、わたしはまだあの姫が鬼籍に入ったなど、信じられていないのです。桜が好きな人だった。こうして桜を眺めれば、その姿は今も鮮やかに息づいて、遠くからこちらに駆けてくるのが見えるようで…。わたしは、今も待ってしまうのです。わたしの名を呼びながら、あの人が現れてくれるのを。いつ来るのだろう、今日か、それとも明日か。そうして時間だけが過ぎてゆく。ぼんやり過ごせば、悲しみに押しつぶされそうで。何かしていないと、どうにかなりそうで…気だけが急いでしまって。急いでどうかなることでもないとはわかっておりますが、頭でわかっているはずなのに、どうやら身体は納得してくれない」
部屋の中に密やかな笑い声が満ちる。寂しさをころせない声。然しもの惟伎高もなんと声をかけようか言い倦ねているようで、返る声はない。
こんなに、こんなに…高彬を悲しませているだなんて思っても見なかった。
胸を衝かれてあたしは思わず、そのまま高彬の前に飛び出しそうになった。
あたしは生きているわ、死んでなんかいないわ!悲しませてごめんなさい。一緒に帰りましょう…。
けれど、その衝動をぐっと我慢する。
高彬に生きていることが知られれば、高彬を殺す−…女童の言葉は、呪いのように耳に残っている。
こんなに近
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