参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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したか、目的地はここでしたか、ウホッ納得ゥ。…なんて冷静に言ってる場合じゃなーい!ど、どっ、ど、どうしよう!?
あたしの心の中は阿鼻叫喚渦巻く修羅場だった。
「いけねぇ、これ以上待たせられねェ。そンじゃ抹、ピィ、宜しくな」
「はい」
頭をピヨピヨさせていたあたしは惟伎高が部屋を出て行くのを見てはっと我に返った。咄嗟に、後を追う。惟伎高はあたしに気づいているのかいないのか、振り返りもしない。そして、客間に入っていった。パタンと障子が閉まってから、あたしはすさささとそこに近づいた。今はもう日も落ちた。石山寺では普段、濡れ縁添いにぽつぽつと提げてある釣灯籠に火は入れていない。雲が出ていないときは月明かりだけで充分明るいし、この広い寺の中、だーれも通らないのにその全てをいちいちつけてまわるなんて考えるだけで面倒くさい。客人があればちゃんとつける…筈なんだけど、どうやら高彬の来訪が急だったからか、それは夜闇の中沈黙を保っている。そのことは、これからこっそり客室の中を窺おうとするあたしには渡りに舟だ。偶然か、はたまた惟伎高がとりつけたのか、この部屋横の釣灯籠が唸るぐらい良い位置についているのよ。もしこれに火が入っていたのなら、今あたしがいるような明障子ぎりぎりのところには間違いなくいられない。絶対に障子に影が映り、不審者はここですよー盗み聞きされていますよーと中の人にすぐわかるようになっている。前田家が新しくなった暁にはぜひ参考にさせて貰おう。うん。
部屋の明障子に、自分の影が映らないようにだけ気をつけながら、あたしは静かに聞き耳を立てた。
衣擦れの音がして、定形の挨拶が交わされる。
高彬。
やっぱり、高彬の声だ。
疑ってた訳じゃないけれど、あたしは久々に紛う事なき高彬の声を聞いて、ちょっとしんみりした。
「いや、驚きました。先にお知らせ頂ければ、もう少し歓迎のご用意も整えられたのですが。諸々行き届かず申し訳ありません。何かあれば、遠慮無く申しつけて頂ければと思います」
「有り難いお心遣い痛み入ります。けれど、どうぞわたしのことはお気遣いなく。急に来て礼を失しているのはこちらですし、普段通りにして頂ければと思います。先触れの文は出したのですが、その気は無くとも急いていたようで…わたしの方が先に着いてしまいました。庵儒殿は出かけておられたのですか?」
「ええ、桜を。すこし」
「桜…ですか。それはまた…」
部屋の中がすっと静かになる。
風流にも、室内から影となって落ちる桜の花を見ているのだろうか。
あ
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