参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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「あ、尼君様!捜し物はどうでした?無事見つかりましたか?尼君…尼君様?お顔の色が優れませんが…」
あたしはどくどくと不吉に高鳴る胸を押さえて、抹の横に腰を下ろした。
いや、大丈夫、大丈夫よ。バレっこない。だって顔を見せずに一目散に逃げてきたもの。あたしのこと、高彬は気づいていないはずよ。絶対に、大丈夫。
それにしても、石山寺の前の道で高彬に会うなんて…偶然だって信じられない。でももう寺の中まで入ってしまえばこっちのもの。絶対にバレていない自信があるから、追いかけてくるって事も万に一つも無い。もうここから高彬は立ち去っているだろう。
はぁ。段々動揺が落ち着いてくると、久しぶりの再会だったし、気づかれないのならもう少しあの場にいても良かったかもと思ってしまうのは都合が良すぎかしら?
「ピィ!」
「ホワッ!?…って惟伎高!」
悶々と考えていたら、いつの間にかきっちり袈裟を着込んで髪も綺麗に纏めている惟伎高があたしを覗き込んでいた。横で抹も心配そうにこちらを見ている。
「なに呆けてンだ」
「威かさないでよ、なに!?」
「頼みがあってェな。悪ィが部屋をひとつ、整えてきて欲しい」
「部屋?誰か来るの?ていうか泊まるの?」
「あァ、多分な」
「はーん、それでそんなちゃんとした格好してんのね。偉い人?お茶でも出す?」
「いや、俺の義弟なんだァが、一応な。茶はもう抹に頼んだ」
「はいはい、接待は綺麗どころに任せてあたしはしっかりお部屋をお掃除させて頂きますよっと。それにしても、へぇ〜弟さんね。兄弟なんて滅多に来ないって言ってなかった?この時期に来るのを見ると、桜でも見に来たか、舟遊びってとこかしら?あんたに似てる?佐々家って子沢山だから、…。…え、佐々家…」
ぺらぺらと喋っていたあたしは嫌な予感に口を噤む。そうしてそういう悪い予感ほど、往々にして当たってしまうものなのである。
「いや、似てはいねェな、少なからず外見は。佐々高彬、知ってるか」
んぎゃあ〜やっぱり高彬!
横で抹がのんびりと「庵儒様は佐々のお方だったのですね」と言い、惟伎高が「おう。まァもう俗世は捨てた身だがァな」と返しているが、正直あたしはそれどころではない!
あわわわわわわ、なんで、なんで高彬はこんな辺鄙なトコロに…。いえ、さっきのことを冷静に考えれば、高彬が通りかかったって思うよりも、ここを目指して来てたって考えた方が筋は通るんだけども。そうか、そうで
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