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東京百物語
ゆり
二本目★
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始めた。

















 老婆は思いつめたような顔でこちらに歩いてくるゆりを見つけると、不揃いの歯を覗かせてにやりと笑った。



「来ると、思っていましたよおおおおおおお」



「本当に祓えるの」



 ゆりはぶっきらぼうに言った。この老婆が怪しいのはわかっている。しかし、今は藁にでも縋りたい気分だった。



「もちろん、祓えますともおおおおおおおお」



 老婆はしたり顔で頷くと、ゆりをどこかに(いざな)おうとした。



 老婆のにやにや笑いが気持ち悪い。でももうゆり自身にはこれ以上どうしようも出来ない。ついていくしかないのだ、ここまで来たら。ゆりは今日、大学へ行かず電車に乗って真っ直ぐ新宿を目指した。これ以上、一分だってこのわけのわからない幽霊に苦しめられたくない。いつぞやの夜、この老婆は言っていた。このままでは、ゆりは死ぬと。死にたくない。この苦しみから、どうにかして逃げ出したいー…。



「ゆりちゃん!」



 ゆりははっと振り返った。雑踏の中、そこにいるわけのない人がいた。友人の山下が、人波を掻き分けて一目散に走ってくる。その後ろには、憧れの青山もいる。目の前の老婆が苛立たしげに舌打ちをした気がした。



 ゆりは動揺しながらも一歩、駆けてくる山下に向かって踏み出す。



「山下、あんた、どうして…授業は…」



「みんな、が、ノートとって、くれてる…っはぁ…」



 山下は膝に手をつき息を整えると、きっと顔を上げた。今まで見たことがないぐらい真剣な顔をしている。怒られる!ゆりは咄嗟にそう思いぎゅっと目を瞑って首を竦めた。



「おばぁさん!」



 しかし山下はもの凄い勢いで老婆の手を掴んだ。



 これまたゆりは焦った。山下の怒りはゆりではなく老婆に向かったのだ。いくら怪しくても老婆がゆりの最期の頼りの綱であるのは間違いない。ここで大学に連れ返されるのも、老婆の機嫌を損ねてやっぱり除霊をしないと言われるのも困る。



「山下…」



「おばぁさんっ、宜しくお願いします!」



 止めようとゆりが山下の腕にかけた手は、その予想外の言葉にすっと力が抜けた。



 山下は鬼気迫る顔で老婆の手を握りしめている。



「ゆりちゃん最近本当に元気がないんです。あたし達じゃゆりちゃんが苦しんでいるのになんにも、なんにもしてあげられなくて…。だから、どうか、宜しくお願いします!ゆりちゃんを助けて下さい。お願いします!お願いします!」



 山下は何度も何度も頭を下げた。いつの間にか青山がゆりの横に
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