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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第5話 士官学校 その3
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くしかない。亡き父の上官であり、良き先達者である彼との間には、一〇の階級が横たわっている。だが、少なくとも認めたくはないが尊敬する彼の言葉を聞いて、俺は体温が急激に降下したのを感じざるを得なかった。

「君は軍人に向いていない。私は出来るだけ早いうちに君が退学届を出すことを期待している」

 言葉にするといささかテンプレ的ながら、俺はどうやって自分の部屋に戻ってきたか分からなかった。ただ本当に、意識を自覚したのはウィッティに頬をペシペシと叩かれてからだった。
「いきなり新校長に呼ばれたから、どんなとんでもないイタズラをしたかと思ったが、大丈夫か? 顔、真っ青だぞ?」
「あ、あぁ……」
「どうしたんだ。退学しろとでも言われたのか?」
「あぁ」
「……はぁ!?」

 ウィッティの顔はいっそ見応えがあった。あの面長な顔に目と口で丸が三つ出来たのだ。だがその顔を近づけて俺の肩を揺すられると、マジでビビる。この顔ならあのオフレッサーにも勝てるんじゃないか。ガッチリと俺の肩を掴むウィッティの指が、まるで針金のように感じられる。

「一体どういう理由で? ヴィクは全科目平均で八五点を越えているだろ。確か二年進級時成績は……」
「一九番/四五五〇名中。戦略研究科で一三番/三八八名中」
「少なくとも俺よりは上だ。ヴィクの成績が退学に値するなら、同時に士官学校の生徒を四五三一名も退学させなくてはならない。そんなアホな話があるか」
 俺の肩を掴んでいた両手を放し、部屋から出て行こうとするウィッティの後から襟首を掴んだ。
「校長室へ行くつもりだろ、ウィッティ。止めてくれ」
「分かってて止める理由はなんだ、ヴィク。お前の正統な権利を侵害されているんだぞ?」
「校長は『退学届を出すことを期待している』と言っただけだ。『出せ』と命じたわけじゃない」

 俺はヴィクだけでなく自分にも言い聞かせるように言った。そうしなければ、俺自身ウィッティの手を離したくなってしまう。

「俺には軍人になるべき重要な何かが欠けていると、校長は言っているんだ。それを見つけ、校長が言った言葉が正しいか自分で判断するまでは、反論も抗議もする意味がない」
 そこまで言い切ると、さすがにウィッティも立ち止まり、俺を見下ろして言った。何を言うのかもだいたい想像がつく。
「校長の言っていることが正しかったら退学するつもりか?」
「するわけがない。俺には軍人になってやらなければならない事がある。必要であるなら改善するし、必要でないなら改善しない。校長に抗議するかしないかは、俺がその時に決める」
 
 図らずも第二の人生を銀河英雄伝説の世界で過ごすことになった。こちらの世界の父親は帝国軍によって倒された。恨む、という気持ちは残念ながら浮かんでこない。我ながら『親不孝』だ
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