第5話 士官学校 その3
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とは思えないな」
溜息をつくウィッティに、俺は肩を竦めて応じた。
士官学校の校長は、基本的に同盟軍中将を持ってあてることが軍憲章には記されている。後方にあって優秀な士官を育てるという任務は、軍にとって最重要任務と言っても過言ではない。だが実際のところ優秀な高級軍人というのは実務・実戦で必要とされており、戦局に大きな影響を与える事のない(そう考えていること自体が間違いなんだが)後方の教育職は軽んぜられる傾向がある。出世コースから外れた退役まで六年程度の老中将か、あるいは次期重要ポストが空くのを待つ若手の中将が当てられる。士官学校校長の在任期間は平均すれば四年だが、老中将は退役まで在任し、期待の若手は一・二年で転出していくので、実際に四年間在任する校長は殆どいない。
ただこの時、俺の思考は「戦略戦術シミュレーション」の成績に集中していた為、新年度になるまで士官学校の校長については忘却の奥底にしまい込まれていた。
大講堂の中央演壇に、あの長身黒人『中将』閣下が登壇するまで。
そうだった、と今更後悔してももう遅い。三年後には魔術師が、五年後には自称革命家が入学してくるのだから、シドニー=シトレが校長となるのは間近であったのは間違いない。ただウィッティの『腰掛け校長』という言葉に惑わされただけなのだ。宇宙歴七八五年に校長職であったといっても、その年に『着任』する必要はないわけで。
「そう嫌そうな顔をする必要があるのかね。ボロディン候補生」
巨大な書斎机に白い布がぴっちりと掛けられた本革ソファ。壁一面に並べられたトロフィーや報償盾。そして歴代の校長の写真が天井近くにばっちりと並んでいる。士官候補生がこの部屋に入ることが許されるのは、成績上位者の表彰を受ける時と、落第や譴責の通告を受ける時の二通りしかない。だから俺は呼ばれた時、ばっちりと七年前の出来事を思い出した。
一体なんなのよ。この状況。
「……校長閣下。自分はなぜ呼び出されたか、よく分からないのでありますが」
「校長が校長室に士官候補生を呼んではいけないという規則はないはずだが?」
「正当な理由があるのであれば、お教えいただきたく存じます」
「亡き戦友の息子の顔を見たかった、ではいかんかね?」
予想通りの返答に俺は失礼を承知で大きく溜息をついた。公私の区別が付いていないなどと杓子定規にいったところで、この校長にはさして効果はないのは分かっている。
「こんな顔でよろしければ写真でも撮ってください。ですが、校長室に呼ばれるというのはこれっきりにしていただきたく存じます。全候補生に贔屓されたと思われますので」
「そう思われても大して気に留めないくせによく言う。だが私が君を呼んだのは、別に理由がある」
そう言われては、俺としても背筋を伸ばして聞
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