第三章
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第三章
「何かね」
「同じ人間がいるとですか」
「そうなるわね」
百合子は答えた。
「この痣ずっと気になっていたから」
顔が苦笑いになった。
「別に気にすることないわよね」
「そう思いますよ」
隆一は百合子にそう返す。
「だって。こんなの誰にもありますから」
「そうよね」
「そうですよ」
彼はまた述べた。
「ですから」
食器を洗い終え今度は拭いている。手作業のせいかやはり黒子が目立つ。しかし彼はそれでも何も気にすることなく作業をしている。そんな彼の様子が百合子には凄く強いものに見えているのであった。
「そうね。痣は」
「はい、気にすることないです」
彼はまた言う。
「僕だって黒子なんか気にしていませんから」
「わかったわ。今度からそうするわ」
百合子は答えた。
「有り難う」
「いや、有り難うって」
その言葉にはかえって戸惑ってしまった。
「御礼なんて別に」
「いえ、いいのよ」
しかし百合子は有無を言わせない程の満面の笑みを彼に向けて言ってきた。
「私が感謝しているんだから」
「そうなんですか」
「そうよ。それでね」
「はい」
話は続く。
「兄さんは何て言っていたの?」
「兄さんってマスターのことですよね」
「ええ。私のこと」
「ええと、それは」
急に何と返事をしていいのか困ってしまった。どうやら彼が百合子のことを自分に言っているのを気付いていたらしい。それがわかったから返答に困ってしまったのである。
「何て言いますか」
「言えない?」
「いえ、別に」
下手な誤魔化しであった。誰にもわかる程の。
「それはその」
「じゃあいいわ。けれどね」
百合子は自分の話を続けてきた。
「これからもアルバイト続けてくれるのよね」
「はい、それは」
こくりと頷いて答えた。
「ここのバイト楽しいですし」
彼は言う。
「それにお店も雰囲気もいいですし」
「そう。じゃあいいのね」
「はい」
答えは決まっていた。しかしその返事は妙に必死なものになっているのが自分でもおかしい位にわかった。それがどうにもやりきれなかった。
「大学は殆どエスカレーターですし」
「あら、そうなの」
「ええ」
また素直に述べる。
「そうなんですよ」
「それで高校は何処なの?」
「東沢高校ですけれど」
「あら、私の後輩だったの」
百合子はそれを聞いてすぐにこう述べてきた。
「えっ、そうだったんですか」
「ええ。そうだったの」
「じゃあ大学は」
「ええ。東沢大学よ」
隆一のエスカレーター先の大学でもある。ここまで同じであった。隆一にとっては驚くしかないことであった。ただもう唖然としていた。
「はあ」
「学部は文学部」
「文学部なんです
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