第二章
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変な男には容赦しない、そう公言している彼を前にして百合子に声をかける男なぞそうはいない。だから百合子に声をかける男自体も多くなかったのだ。
おっとりした百合子はそうしたことにも気付かない。しかし隆一は少しずつ彼女と二人で話をするようになってきていた。そんな時であった。
「あら」
百合子は皿を洗っている彼の手を見て声をあげた。
「どうしたの、それ」
「えっ!?」
隆一は彼女に声をかけられて動きを止めた。それから問い返した。
「何かあったんですか?」
「その右手よ。どうしたの?」
「どうしたのって」
「黒子あるじゃない」
「ああ、これですか」
右手の甲の三つ並んだ黒子であった。言われてみればかなり目立つ。
「生まれた時からあるんですよ」
「そうなの」
「はい」
隆一は答える。どうやら答え慣れているようだ。それは彼の応対でわかる。
「別に何ともないですよ」
「何か一緒ね」
「一緒って?」
「ほら、見て」
百合子はそう言うとにこりと笑って自分の首筋を指差してきた。見ればそこには小さな丸い痣があった。
「これも生まれた時からなの」
「そうなんですか」
「そうなの。洗っても消えないわよ」
笑って言う。
「子供の時はどうしても嫌で何度も洗ったりしたけれど落ちなかったわ」
「僕は別に気にならなかったですね」
隆一は答える。
「何でこんなのあるんだろうって思いましたけれど」
「そうね。そこは違うけれど」
百合子は述べる。
「一緒ね、私達」
「一緒ですか」
「そうよ。何か私と同じ人がいるんだって思うと気が楽になるわ」
「楽になります?」
「ええ」
優しい笑みのまま述べる。どうやら今でもその痣のことを気にしているらしい。それは隆一にも何となくであるがわかった。
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