第二章
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俺は本気だ」
「えっ」
驚かない方がどうかしていた。今の言葉で目が点になってしまった。
「今何を」
「あのな、バイト君」
隆一は彼にそう呼ばれている。百合子は大和君と呼ぶ。
「俺は人を見る目はあるつもりだ」
「そうなんですか」
「そうだ。今まで妹に言い寄る訳わかんねえ奴等は俺がこの手でぶっ飛ばしてきた」
その丸太の様な腕を見せて豪語する。
「どいつもこいつもな。やっぱり世の中は碌でもねえ男がゴロゴロといやがる」
「はあ」
「しかしな。バイトの時に俺はちゃんとそいつがどういう奴かも見ているんだ。それでだ」
隆一の顔を見て不敵に笑う。
「御前さんは大丈夫だ。だから雇ったんだよ」
「そこまで考えていたんですか」
「当たり前だ。俺の店で働いてもらうんだぞ」
隆一を見たまま述べる。
「とことんまで見ているさ。それで入れる」
話を聞いて思い出した。そういえば面接は一時間以上かかって時折探るような言葉を言ってきた。何か妙な感じを受けたのは事実だった。それにはこうした事情があったのであった。それが今わかった。
「わかったな」
「そこまで見ていたんですか」
「で、どうだい?」
マスターはそこまで話して彼に問う。
「これから。百合子と話してみるかい?」
「あの、それはまあ」
おどおどした様子で彼に返す。その圧倒的なまでに強引な雰囲気に飲み込まれかけていた。
「百合子さんが良いって仰れば」
「それだよ、それ」
マスターはまた言ってきた。
「その謙虚さと手順を守るのがいいんだ。最近の若いのはそれがなっちゃいないんだ」
実はマスターはまだ二十代である。それでこうした言葉はないと思うがどうもその風格を見てそれは言えなかった。元々人にあれこれと言わない隆一であったが。
「よし、じゃあまあ今は試用期間だ」
勝手に決められた。
「いいな」
「わかりました」
隆一はそれに頷いた。頷いたところで百合子が店に帰って来た。
「おう、終わったか」
「ええ」
そうマスターに返す。
「これでね。そっちは終わり」
「そうか。おいバイト君」
「はい」
どうやら百合子は今の二人の話を聞いていないようであった。それに内心ほっとしながらマスターに応える。
「それが終わったら今日はもう終わりだ。いいな」
「わかりました」
マスターの言葉についてあれこれ考えながら応える。この日はそれで終わりだった。
それから隆一はこれまで以上に百合子を意識するようになった。しかし内気な彼はぽつりぽつりとしか話ができないでいた。それが自分でももどかしくもあったがどういうわけか百合子目当てで来る客は多くとも彼女が陥落することはなかったのでそれでかなり気分的にも助かっていた。
それにはマスターの存在が大きかった。
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