龍が最期に喰らうモノは
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殿で……兵力が減り、王と筆頭軍師の居ない揚州を攻めるのです」
沈黙は肯定を示してか。
劉表はただにやにやと口を歪め、片目を細めてねねを見つめていた。
続きが紡がれない様子を見て、左の肘を机に置き頬杖を付いた。は……と短く息を吐きだす。称賛と、嘲りを込めて。
「それだけじゃ足りねぇ。例え天下無双の呂布が武将達を圧倒しても、ねねがいくつもの部隊を指揮しようとも、軍としては人材豊富な孫策軍に勝てないからな。まあ、孫策と周瑜を外交に引き摺り込む時点で孫呉の崩壊は無いわけだけど。だから……オレの兵をたくさん戦に駆り立てて消費し、虎の兵力を同等以上の数だけ割いて……負けたら絶好の時機が来るまで二人だけで身を隠せ。それがお前に与える最後の命令だ、ねね」
三日月型に吊り上った口から零れ出る命令に、ねねはもう、耐えられずに震えだした。
荊州の城での言の通りに、彼女は自分の命を対価にたった一つの糸を引いて、全ての糸を操りに行く。
賢き悪龍は、知略と言葉と計算を刃と化してぶつけ合う国同士の外交の場を、最後の戦場と決めていた。
他の事は全て……ねねに託して。
「龍飛、には……何が見えているのですか」
緩く息を吐きだした劉表の瞳は、御馳走を目の前にした子供のように輝いている。
自身の腕で身体を抱きしめ、ねねは煌く灼眼を恐ろしげに俯きながらも見上げた。
「キヒ、キヒヒヒっ! 最後に笑えばそれで勝ち、だ。平穏なんざ、泥沼の中で探さねぇと見つからねぇ。争い、競い、奪い、奪われ、いがみ合い、そうやって人は強くなって行く。世は須らく蠱毒の如し。そうして残った奴等にだけ、乱世の後に平穏を与えればいい。だからオレは……他者を信じる心を喰らって乱世をかき乱してやるのさ。オレの命を使って、な」
抽象的な表現に隠された意図に気付かないねねでは無く、ぎゅっと目を瞑って心を落ち着けていく。
自分がやる事は何か、彼女の本当の望みが何か、そして何より……愛しい主を、逸早く平穏な世で戻す為に。
「分かってると思うが時機はねねが選べよ? さすがにそこまではオレでも読み切れねぇ。オレが最後に残す乱世の不可測、ねねと呂布の二人を完全に抑えられる奴がいたのなら、オレの全てはそいつに負けた事になる。そうなったなら、オレみたいに世をかき乱すなり、大人しく平穏に尽力するなり、お前の好きにしろ」
愛しい我が子を愛でるように、そっと、ねねの頬を撫でた。
死人のように白く冷たい手に自分の手を重ね、目を瞑ってから、ねねはいつものように不敵に笑う。寂しくて、悲しみに落ち込む心を隠せるように。
「……了解なのです。では、これが龍飛との最後の晩餐、というわけですな」
「キヒ、こんだけ美味いもんがねねとの最後の夕飯なら満足だ。ほら、甘いもん
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