第百七十七話 安土城その十三
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「その時に動くわ」
「しかし殿」
「もう長老はです」
「それに他の十一家の方々もです」
「不機嫌な顔をされているとか」
「松永家は十二家の中でもです」
「不穏な目で見られていますが」
こう話すのだった。
「しかしですか」
「それでもなのですか」
「まだ動かれませぬか」
「今も」
「その時期はわしに一任されているではないか」
だからだというのだ。
「それはまだじゃ」
「動かれずですか」
「様子見ですか」
「そういうことじゃ。さて」
ここまで話してだった、至って静かな顔でだ。
松永はだ、こう彼等に言った。
「では今から茶を飲むか」
「茶をですか」
「それをですか」
「平蜘蛛を出すのじゃ」
お気に入りのこの茶器をだというのだ。
「あれをな」
「平蜘蛛ですか」
「あれを」
「あれを使ってな」
そのうえでというのだ。
「茶を飲もうぞ」
「殿があれを出されるとは」
「これは」
家臣達はこのことからわかった、松永が己の命の様に大事にしているその茶器を出す時はどういった時か知っているが故に。
「かなり上機嫌ですな」
「お気持ちがよいのですな」
「実にな」
実際に笑って答えた松永だった。
「わしは今実に機嫌がいい」
「よくわかりませぬ」
「殿のお考えが」
「どういうおつもりなのか」
「全く」
「ははは、機嫌がいいとだけわかってくれ」
これだけはというのだ。
「それだけでよい」
「ううむ、全く殿は」
「お考えがわかりませぬ」
「それがまたよいのですが」
「それでも」
家臣達はそんな松永に首を傾げさせるだけだった。だが松永は平蜘蛛を出してだった。そのうえで機嫌よく茶を飲むのだった。
第百七十七話 完
2014・4・4
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