第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第一節 追撃 第五話 (通算第65話)
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呼び出しが掛かってから、エマは真新しい下着に取り換え、紺を基調としたティターンズの制服に袖を通した。詰襟は男のようで好きではなかったが、いまさらスカートを穿く気にはなれないのは、父の夢を実現させたかった幼き日々の思いが、習慣化してしまったからだろうか。
汗が少しだけ気になる。時間があれば、シャワーを浴びて、気分を爽やかにしたいところだが、今は緊急召集である。そんな暇はなかった。ただ、死と隣り合わせの戦場に出るのだから、せめて使い古しの下着のままは厭だと感じ、軍人といえど女なら、それぐらいは赦されると考えるのがエマだった。
支度を終えたエマがブリーフィングルームに入ると既にジェリドとカクリコンは着席していた。後方にひとり――あれは《ガンダム》の設計士ではなかったか。最初の訓練の時に機体の説明をした技術士官。名前は確かフランクリン・ビタン大尉――が立ったまま壁に寄っ掛かっている。前方には――
「遅いぞ」
「すみません」
素っ気なく返す。それでも、謝罪するのがエマらしい。
咎めるような、皮肉屋っぽい擦れっ枯らした声はジャマイカンだ。が、別段エマに落ち度がある訳でも、遅刻した訳でもない。単に全員の――特にジャマイカンの来るのが早かっただけだ。
(なんだろう……?)
少しだけザラついた苦い空気。嫌な感じだった。肌を刺すような、まとわりつく、嫌いな男に身体を触られたような感覚。心のざわめきが治まらない。もう一度、訳もなく室内を見回した。
ブリーフィングルームは閑散としている。ブリーフィングは通常パイロットだけではなく、整備長、砲術長、通信長、機関長など各科長や副長や班長が兵も連れて顔を出すため、座席が足らず、兵たちは後ろで立つことになるほどだ。だから、違和感を覚えたのだろうか――いや違う。そういうことではない。エマは自分の感覚に戸惑っていた。
論理的に考えれば、攻撃するには、整備班や甲板員が居ないこと、さらにパイロットではないフランクリン技術大尉の同席は不自然である。
何かある――エマは作戦を額面通りに受け取らない方がいい感じた。それにしても、こんな風に感じるようになったのはいつからだったか?――過去に思いを馳せ、思考の迷宮に入り込みそうになった時、ジャマイカンの声に遮られた。
「これを見てもらおう」
エマの着席を待って、ジャマイカンが指示棒で操作する。前面にあるスクリーンに映った航宙図が拡大され、敵艦と味方艦がマーカー表示される。展開予定のMSが三機。出撃が予定されているのは《ガンダム》と《クゥエル》二機だ。敵艦を攻撃するには少なすぎる。
「これは…」
「何を考えている!これじゃ、死にに行くようなもんだぞっ」
カクリコンが口を開いた瞬間、ジェリドが怒声を被せた。直情的な上に短絡的な性格でチームのムードメーカーではあ
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