第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第一節 追撃 第二話 (通算第62話)
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「それよりも、敵――エゥーゴの新型の方が気になります」
「あの赤い機体か……ならば貴官にも《アレキサンドリア》に同乗してもらおう」
バスクがジャマイカンに指示するのを遮るようにフランクリンが抗議の意を表した。
「わ、私は……」
「大尉には間近で見て、機械工学の第一人者としてのアドバイスを我々無学な軍人にしていただきたい」
とりなすように、ジャマイカンが割って入る。先ほどの不快さを何処かに忘れてきたかのような態度の豹変だ。フランクリンとしては困惑するばかりであった。彼は技術者であり、軍属であっても軍人ではない。第一、拳銃すら撃ったことがない。だが、今は新型への興味が僅かに勝っていた。
コロラドサーボ社ではなかなかジオンの技術に触れる機会がない。パドライト社がジオン系の技術を取り入れ斬新なMS――NRX―004《アッシマー》を完成させたのを臍を噛んで見守った記憶は新しい。しかもRAS―85《アトーシャ》として空軍の制式採用が決まった時には『言わんことはない』と言い放ったものだった。ジオンの技術は未だに飛び抜けており、連邦のMSに流用するだけで今までとは違うMSの形が模索できるのだ。
彼の見る限りエゥーゴの新型はジオン系の技術をベースに連邦系の外装で括んだような感じがしていた。それを自分の目で見、手で触れたい――その好奇心が己を殺す。しかし、全く意に介さない。それは研究家の悪癖であった。
「そういうことであれば……」
不承不承という態で同意して見せる。幾ら技術屋でも、それぐらいの腹芸はできなければ、今の地位に座ることはできない。だが、聞いて置かなければならないことがあった。
「エゥーゴとは戦争になりますか」
「いや、戦争にはならんだろう。エゥーゴといっても一部の跳ねっ返りどものしたことだ。月面派も一枚板ではない。そいつらを殲滅さえしてしまえば、連邦中央が隠蔽しようとするだろう」
「しかも、先に手を出したのはエゥーゴだ。どうとでも利用できる」
フランクリンは吐き気がした。ジャマイカンは姑息であり、バスクは陰険である。自分たちのしたことを忘れられる人種というのは都合が自分たちだけのものだと思っている。スペースノイドがどうなろうと、フランクリンの知ったことではなかったが、自分が戦争に巻き込まれるのはゴメンだった。
「ヒルダ中尉もお連れしろ」
「家内は関係ないだろう」
フランクリンは狼狽した。いくら家庭を顧みない夫といっても、妻は妻。抵抗が虚しいと解っていても、守ろうとするのは、男の性であると言える。
「戦場で敵の装甲が手に入れば、いち早く材質を調べてもらうこともできる」
そう言われては頷くしかなかった。
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