第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第一節 追撃 第二話 (通算第62話)
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「出撃ですか」
フランクリン・ビダンがバスクに書類を差し出しながら話し掛けた。バスクは書類を一瞥すると散らかったデスクの中央に放り投げる。書類を目で追いながら、フランクリンは眉をひそめた。
「そうだ。奪われた《ガンダム》は必ずや取り戻さねばならん」
「たかが、訓練用の機体です。装甲も旧い……あんなものくれてやっても構わないでしょう」
デスクの上に無造作に置かれた書類とバスクを交互に見ながら言い放つ。その書類は、《ガンダムマークU》が奪われたために急遽、試作が繰り上げされた《バーザム》の開発申請書と仕様書である。認可をスムーズに貰って早々に退散したい気持ちがフランクリンをいつもより饒舌にしていた。
「フランクリン大尉はそういうが、《ガンダム》という名前の持つ重みを、理解してもらいたい」
ジャマイカンが横から口を挟んだ。その言葉にバスクが大きく頷く。ティターンズの試作MSにガンダムの名を冠するには連邦中央の強い反発があり、ジャミトフの政治力で強引に捩じ伏せた経緯があった。それを奪われたとなればジャミトフは面目を失う。そのため、バスク自らが奪還の指揮を採らねばならなかった。
ジャマイカンはフランクリンの発言に対する不愉快さを隠さなかった。『あんなもの』というのが気に入らないのだ。多大な開発費を掛け、ようやく受領した機体が『あんなもの』と切り捨てられるのではたまらない。それに《ガンダム》はパイロットの評価も高く、生産性も《クゥエル》の生産ラインが流用できるため申し分ない。兵器は性能だけではない。整備性やコストパフォーマンスも重要だ。どこまでも性能を追求すればいいというものではないのだ。
(だから技術屋というのは度しがたい)
その不快さを心の中で吐き捨てた。
ただし、これはジャマイカンの穿ち過ぎというものである。《マークU》はあくまで次世代量産機として設計された機体のプロトタイプであり、奪われた機体は、本来のガンダリウム(ルナ・チタニウム)合金製の複合装甲ではなく、チタン複合材製であり、パイロットの操縦訓練用だった。フランクリンが『あんなもの』というには、訓練用の試作機が奪われても量産に差し支えないという理由もある。研究者特有の悁介さがあるため誤解されてしまうが、仕事に対しては一途で真面目であった。
そんな、仕事が命のフランクリンにとっても、ティターンズは決して居心地のよい場所ではなかった。機械工学のオーソリティーにして開発責任者とはいえ、自由に開発ができる訳ではない。
フランクリンにしてみれば、単に『ティターンズほど潤沢な開発費を使わせて貰える研究所が他になかった』からこそ、『軍の招聘に応じた』だけという意識が強かった。彼はコロラドサーボ社からの出向であり、帰れば研究所の所長か開発局長の席は用意されるであろうという目論見もある
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