第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第一節 追撃 第一話 (通算第61話)
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である。その上でジャマイカンに向かって顎を癪ってみせた。それはまるで猛犬の鎖を解き放つかのようだった。
「貴官は何か勘違いをしている。此処はティターンズの本拠である。しかも、上官に向かって、なんという口の聞き方か」
ジャマイカンの言葉にブライトは顔色を失った。自分が今どういう立場にいるかなどという小事ではなく、ティターンズが先鋭化し、それを抑える者が不在であるという恐怖にである。
「そんなことだから、エゥーゴと反地球連邦組織を結びつけてしまうんだっ」
ブライトの中ではティターンズも地球連邦軍の一部であり、エゥーゴも同様である。
だが、特権を与えられた者たちからすれば、自分たちは選ばれたのだと考えて当然だった。
「ティターンズを舐めるなっ」
言うが早いか、ブライトは側にいた将校に左の頬を強かに殴られた。続いて鼻っ柱にクリーンヒットを喰らう。もんどりをうって床を舐めさせられた瞬間、背中に軍靴の鈍い重さが激しい衝撃を伴ってのし掛かる。
「くっ……」
多勢に無勢である。もがけども、紺色の人だかりは微動だもしなかった。目の前にジェリドの軍靴が迫り、ブライトの視界を覆った。
ぐしゃっ。
鈍い音がして、ブライトは沈黙した。が、若い将校たちの暴走は簡単には止まらない。遠退く意識の中で、エマの声だけが記憶に残った。
「無抵抗の人間にっ……やめなさいっ」
ジェリドはブライトを蹴りはしたが、やり込められたウサを晴らしたに過ぎず、深刻な恨みもなければ、ブライトに突っ掛かる気もない。自分の優位性が保たれるのであれば、それで良かっただけであった。エマの声にバツの悪さを感じて垣根から離れた。
カクリコンなどは垣根に加わったに過ぎず、ブライトの率直さに理を認めてはいたものの、軍人は上官の言うことを聞くものだという態であった。
ジェリドにしても、カクリコンにしてもスペースノイド=ジオニストという思い込み――というよりも偏見と一年戦争の悪夢を繰り返させないために、ティターンズに加わったという側面がある。彼らには彼らの正義と『地球を救え!』という大義名分があった。
政治レベルからすれば、スペースノイドの自治権拡大運動は当然である。しかし、如何に戦争とはいえ、地球に屹立するコロニーという絵図は容易に忘れられるものではなかった。ましてや、大質量兵器の弾は宇宙に幾らでも浮いている。それが潜在的な恐怖を生んでいた。
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