第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
七月二十四日:『幻想殺し』
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ネットかプラモデルのように崩れ落ちる。
一体、何時の間に斬られたのか。全くもって分からない。もし、少しでも戦意を示していたらと思うと、首筋が寒くなった。
『てけり・り。てけり・り!』
泡立つ漆黒の粘塊に還った玉虫色の残骸が路面の染みに代わり、慌てたようにうぞうぞと嚆矢の『影』に融けていく。そして、影の中から血涙を流す瞳で彼女を窺っている。
このショゴスはこの程度で死にはしない、『原初の混沌』に還っただけだ。魔力さえ取り戻せば再び現れる、それまで暫しの間、さようならと言うだけの事。
──何にしろ、此処で闘うのは莫迦の所業、か。退いてくれるッてンなら、その方が有り難い。
刃金の右腕と人のままの左腕を竦め、懐から取り出した煙草を銜える。右腕の鈎爪の指を擦って鳴らすように『真空』から電子と陽電子のペアを産み出し、その対消滅のエネルギーで火を灯して紫煙を燻らせながら。言われた通り、投げたまま立っていたステイルの側から離れる。
それを冷静な目で見たまま、十メートル程も離れたところか。その靭やかな身体の何処にそんな力があるのか、火織はステイルの巨体を難なく持ち上げると、そのまま歩き去っていく。
「……そうです。貴方には、『無用な争い』かもしれませんが」
「あァ?」
と、振り向かぬままの火織の声。それに、『魔術師』の顔で、万色の紫煙を吐きながらの声で応えて。
「────『友達』を打ち倒された私には、十分に貴方は用がある。それは、お忘れ無きよう」
寸暇、此方を見た彼女の瞳。静かな怒りに燃えるそれに畏怖と、僅かに美しさとを見て。
「────そりゃ、そうだ。全く、復讐なんて何の意味もないな。次の復讐を呼ぶだけだ」
「全くです。では、これにて」
それでも、そんな風に軽口を。それに勿論、まともに取り合わずに火織は今度こそ夜闇に消えた。
それをしおに、人の気配が戻る。先ずは車のヘッドライトが見え、人の声が聞こえてくる。
それに巻き込まれるのは吝かではない。寧ろ、そうして姿を撒くのが正しいやり方だ。
だが────何故か。何故か、この先の道が気にかかる。それは、誰の意思だ?
「……阿呆か。俺以外に、誰が俺を動かせる」
まだ中程までしか吸っていない煙草を、『人のもの』に戻した右腕で捨てる。残光の螺旋を描く火の軌跡、それを『影』が受け止めた。
『てけり・り。てけり・り♪』
否、そればかりか、ショゴスが嬉しげに煙草を吹かしている。どうやら、先程から煙草や珈琲の減りが妙に早かったのはコイツの所為らしい。
宿主の行為を真似、知識を得る。そうして、“古の者”を。かつて、彼らを造り出した創造者を、彼らはこの地球から駆逐したのだ。
「鬼が出るか、蛇が出る
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