第三章
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第三章
「以前は結城といいましたが」
「そうなのですか」
「はい、喜多村京華といいます」
「京華さんですね」
「そうです。それで」
「御仕事はここで」
「それで娘ですが」
「娘さん?ああ、そういえば」
先生は美女、京華の言葉からだ。あることを思い出した。生徒達の話ではだ。この店にはもう一人いるのだ。そのもう一人とはだ。
「貴女には娘さんも」
「はい、います」
まさにだ。そうだというのである。
「今丁度」
「店におられますか?」
「お皿を洗っていてお店の奥にいますけれど」
「そうですか」
「呼びますね」
先生が何かを言う前にだ。その前の言葉だった。
「柚子ちゃん」
「何、お母さん」
幼女の高い声が聞こえてきた。その店の奥からだ。
「何かあったの?」
「ちょっと来て」
こう言うのであった。
「お客様よ」
「お得意様?」
「お客様は誰でもお得意様よ」
何気に商売の基本を押さえている京華の言葉だった。そして柚子という少女の言葉もだ。幼いながらわかっている言葉だった。
「だから来て」
「ええ、わかったわ」
この返答の後でだ。黒い着物に白いエプロンの女の子が来た。髪は黒髪を左右で小さいちょんまげにしてい目は大きく二重だ。ただしやや吊り目なところが京華とは違う。
しかしその顔立ちは母親によく似ている。その女の子が来たのだ。
「この人ね」
「そうよ、お向かいの学校の先生でね」
「はじめまして」
ぺこりと頭を下げる女の子だった。
「喜多村柚子です」
「はじめまして、今村秀次郎です」
「お向かいの学校の先生さんですね」
「そうだよ。宜しくね」
「はい、これからも毎日来て下さい」
こう話す柚子だった。クールな顔で。
「待っていますから」
「うん。見たところ」
「何でしょうか」
「小学生かな」
柚子のその小さな身体を見ての言葉だ。
「小学校一年かな」
「そうです」
まさにだ。その通りだというのである。
「今度七歳になります」
「そうなんだ。じゃあうちの高校に入るのは」
「受験に合格したらですけれど」
それからだと。随分クールな口調だった。
「九年後ですね」
「そうだね。九年かあ」
「九年後はかなり楽だと思います」
「楽って?」
「通学が」
それだというのである。
「お向かいですので、学校が」
「ああ、そうだね」
先生も言われて気付いた。まさにその通りだった。
「もうすぐそこだからね」
「ですからその時を楽しみにしています」
こうは言うがだ。その表情は変わってはいなかった。
「では、コーヒーですけれど」
「美味しいね、ここのコーヒーは」
「これからも毎日楽しんで下さい」
要するにだ。毎日来いというのである
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