【プロローグ】 化猫の宿
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記憶のはじまりだ。
思い出せる限りで、最も古い記憶は七年前のもので。そのときあったのは、シュヴィ・クライスという名前と、ごく一般的な知識の数々、そして【刃を司る滅竜魔法】だった。
刃竜。
それが僕にさまざまなものを与えてくれた竜の二つ名。
ただし、本当の名前は、わからない。
その答えを持っているかもしれない同じ滅竜魔法の使い手に会い、そして相手も多少違うが似たような境遇にあった。険悪な雰囲気にはならずとも、命を助けた人間と助けられた人間として仲むつまじく話すには少々気分が落ちてしまい、居心地の悪い無言の空間が続いていた。
結局、わかったのは僕たちに滅竜魔法を教えてくれた竜は消えてしまった、ということだけ。僕の記憶の始まりとグランディーネが消えた年月が同じ七年前と一致していることから、おおよそそんなところのはずだ。
僕としては自分が滅竜魔導師である、という記憶を根本から疑わねばならなかった日々をすごしていただけに落胆してはいても得たものがなかったといえば嘘になるが、滅竜魔導師を自分の親の手がかりだと思っていたこの子には落胆が一番大きいだろう。
「自分が一人ぼっちだってわかったとき、悲しくなりませんでしたか? 私、ずっとグランディーネと一緒に生活してたからいきなりいなくなっちゃったときは一日中泣いてたんです。泣いていれば、きっとグランディーネが私の前に戻ってきてくれるって……」
「そっか、辛い思いをしてきたんだな……。僕の場合、自分の正体もこの力をくれた竜の名前もわからずだったし、そりゃあ最初は不安な気持ちにもなったし、泣きたくなる日もあったよ。でも、厳密にはわからないけど一人で生きていけるだけの年齢ではあったし、悲しんでいる時間は少なかったよ」
「そう、ですか。強いんですね、クライスさんって」
「その歳でそんな経験をしている君に言われてもね。ウェンディちゃんの方がよっぽど強いよ」
そうでしょうか。
そうつぶやくウェンディちゃんの顔は、まだ幼さを残す少女がするには少々達観したものだった。
子供らしくほめられたら素直に喜ぶ、ということを忘れてしまったような顔だ。
普段はどうなのかはわからないが、僕という同じ滅竜魔導師と会ったことで押さえ込んでいたグランディーネとの別れの悲しみがぶり返してしまったのならば、この出会いが決していいことばかりであったとはいえない。
歩けるとはいえ怪我をしている身だ。一応ギルドまでの護衛はすると申し出ているが、僕の存在が彼女の辛い過去をフラッシュバックさせる原因となるのならば、非常に惜しいことだが、そうそうに立ち去ったほうがいいのかもしれない。
「そういえば、クライスさんの滅竜魔法ってどんな魔法なんですか? 私は、さっき見せた補助魔法と治癒魔法が主で、あとはその派生系の
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