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黒き刃は妖精と共に
【プロローグ】 化猫の宿
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親を失ってしまったこの少女の希望に。
 今はまだわからない。
 でも、どうせ目的がひとつしかなかった僕の旅。もうひとつくらい目標が増えたところで、どうってことはないさ。

「というわけで、今日から化猫の宿(ケット・シェルター)の一員になったシュヴィ・クライスだ。よろしく、ウェンディちゃん、シャルル」
「……本当に、いいんですか? ここ、そんな大きなギルドでも有名なギルドでもないんですよ?」
「もちろん。どうせ7年旅しても情報なんてほとんど集まらなかったんだ、たまには気分を変えて、やり方を変えてみても罰は当たらない」
「…………」
「ウェンディ、こいつはいいやつよ。きっと何かを見つけられる、そんな予感がするもの」
「シャルル……。うん」

 自信なさげだった瞳を改めて、少女は僕をまっすぐ見つめ、云った。

「クライスさん。ありがとうございます。そして、よろしくお願いします!」


◆◇◆◇◆


「いったいどうゆうつもいなんだよ、マスター」

 ウェンディが新たに仲間になった青年、シュヴィ・クライスにギルドを案内するといってシャルルと共に集会所を後にしてから数分後。ギルドメンバーのほとんどがそこに終結していた。
 みな、困惑したような瞳をローバウルへと向けている。

「確かになんの情報も得られなかった滅竜魔導師、そして竜の情報をあの男が持ってきてくれたのは助かった。すっげぇいいやつみたいだし、実力も相当だってことは俺でもわかった。でもよぉ……」
「そうですよ、マスター。彼は強い。でも、だからこそもし私たちの正体に感ずかれるようなことでもあれば……」
「ふむ……」

 質問には答えず、静かに酒をあおるローバウル。
 そのまま口から戻していたような老人の姿は、そこにはなかった。

「ワシらは、ここを離れることはできない。それは、ウェンディにとって辛いことじゃ。あの子はしっかり者じゃ、皆の前では見せぬが、夜は一人で泣いておるのだ」

 そんな痛々しい姿に見覚えがあるのだろう。メンバーたちは一様に気まずそうな表情を作る。

「ワシは、ワシらは……皆、あの子のことを大切にしているが、それだけではだめなのじゃ。あの子には、いつかワシらではない仲間が必要な時が来る。わしらには、償わねばならない罪がある」

 静かな瞳は、どこか遠い世界を眺め。
 それに、と。ローバウルは言う。

「ワシは、知っておるのだ。あの者が、いつかあの子を広い世界に導いてくれる。そんな人間であることを」


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