第一章
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第一章
夏祭り
夏になると。僕はいつも心が弾んで仕方なかった。
それで友達にも。いつもこう言ってた。
「やっぱり夏っていいよな」
「何だよ、水着か?」
「女の子の水着姿が見られるからだよな」
「違うよ」
それはまずは否定するのがいつもだった。
「確かに水着もあるけれどさ」
「ほらな、やっぱりそうじゃないか」
「水義あるじゃないか」
「それは否定できないだろ」
「できないさ。けれどさ」
僕は言った。友達に。
「そういうのじゃなくて。夏自体がさ」
「いいっていうの?」
「夏自体が」
「それが」
「そう、凄くいいじゃない」
満面の笑顔で。いつも言っていた。
「暑い日差しも蝉の鳴き声も青い空も白くもくもくとした雲も」
「何だよ。もう夏全体が好きで仕方ないんだな」
「本当にそんな感じだな」
「夏がそんなに好きか」
「もう何もかも」
「好きで好きで仕方ないんだよ」
また言う僕だった。これもいつものことだった。
「本当にさ。海に行くのもプールに行くのも山に行くのも」
「街を歩く自体もだよな」
「本当に何もかもなんだな」
「うん、夏は大好きだよ」
僕はこう言って止まらなかった。
「何をするにしても」
「じゃあお祭りもだよな」
「それも好きだよな」
ある年、中学生の時にだった。皆からこう言われた。
これまでのやり取りはいつものことだったけれどこの時はだ。この時だけのことだった。
僕は皆にこう言われた。
「神社の前のお祭りな」
「それもだよな」
「好きだよな」
「うん、それもね」
この時僕は。こう答えた。何も考えないで。
それでだ。また言ったのだった。
「楽しいじゃない。盆踊りの音楽に夜店にさ」
「それで夜店で色々なもの買ってな」
「あれは確かに楽しいよな」
「俺達だってそうさ」
「またあるよね」
僕は笑顔で皆に言った。
「ほら、駅前の神社で」
「ああ、あるぜ」
「もうすぐだよ」
「御前も行くだろ」
「行くよ」
選択肢はこれしかなかった。
「絶対にね」
「よし、じゃあ皆で行こうぜ」
「女子も誘ってな」
「小林も誘うか」
ここで。この名前が出た。
「あの娘も来るよな」
「来るだろ、やっぱり」
「誘ったらな」
「えっ、小林さんって」
実は彼女のことが好きだった。同じクラスの背の高いすらりとした娘で。明るい性格ではっきりとした顔立ちの。この時の僕の好みの娘だった。
その娘が来ると聞いて。僕は。
何とか動揺を消して。それで言った。
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