第百七十七話 安土城その十二
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「胸が悪くなります」
「あの様な城は」
「神仏が揃い墓石や地蔵の力も多くあります」
「まさに我等にとっての邪魔でも」
「忌々しいものではありませぬか」
「まつろわぬ闇の者には」
松永に対して実際に忌々しげに話していく。
「ですからあの城は」
「何処がよいのか」
「焼いてしまいたい位です」
「今すぐにも」
「しかもです」
彼等は松永にさら言うのだった。
「織田信長の政はです」
「いよいよ天下を治めるものになってきました」
「このままではです」
「天下は統一され」
そのうえ、というのだ。
「そして長きに渡っての泰平の世となりましょう」
「そうなればです」
「我等はどうなるのか」
「最早出る幕はありませぬ」
「天下はあの男の下に治まり」
「日輪が世を照らします」
「そうした世になりますぞ」
だからだというのだ。
「我等はです」
「あの城は一刻も早く焼き」
「そして織田信長を滅ぼし」
「天下を乱しましょう」
「応仁の頃の様に」
「そう思うか、御主達は」
ここまで聞いてだった、松永は考える顔になり袖の中で腕を組んだ。そのうえで己の家臣達にこう言ったのだった。
「天下は乱れるべきか」
「はい、織田信長が出る前位に」
「その辺りまで戻ってです」
「乱れ続けてもらわねば」
「ならないかと」
「そうか。そしてそれはじゃな」
松永は表情を変えない、その目の光もだ。そのうえでこう言うのだった。
「長老のお考えじゃな」
「間違いなく」
「ですから長老も殿に催促しておられるのです」
「天下を乱せと」
「織田信長に叛旗を翻し」
「あの時の様にです」
家臣の一人がここでまた言ってきた。
「将軍を殺し大仏を焼いた」
「あの時の様にか」
「はい、そうすべきかと」
「そして天下を乱してか」
「我等の世に導きましょうぞ」
「ふむ」
ここまで聞いてもだった、松永はというと。
言葉を出さない、暫くの間は。
そしてだ、暫しの沈黙の後こう言うのだった。
「しかしな」
「ここでまたしかしですか」
「そう仰るのですか」
「今は時ではない」
やはりだ、言う言葉はこうしたものだった。
「動くのはな」
「それではですか」
「今もですか」
「動かずにですか」
「織田家の中におられますか」
「そうされますか」
「まだよい」
山の様にだ、松永は動かずに述べた。
「その時になれば動くからな」
「だからですか」
「まだですか」
「動かれぬ」
「左様ですか」
「時は必ず来る」
まだこう言うだけだった。
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