第百七十七話 安土城その九
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「大事に扱う様にな」
「まさかそれだけのものを頂けるとは」
「当然のことじゃ」
「当然ですか」
「御主はそれだけの働きをした」
だからだというのだ。
「加増だけでは足りぬからな」
「それでなのですか」
「うむ、刀にな」
その茶器もだというのだ。
「渡すぞ」
「それでは」
「御主にはこれからも働いてもらう」
信長は微笑み長政にこうも告げた。
「頼んだぞ」
「はい、さすれば」
「しかし殿」
「今回の論功ですが」
他の家臣達もだ、信長に言うのだった。
「我等もかなり加増して頂きましたし」
「茶器等もです」
「素晴らしきものをかなり頂きました」
「今回は奮発されましたな」
「相当に」
「御主達がそれだけの働きをしたからじゃ」
だから出したというのだ。
「驚くことはない」
「左様ですか」
「我等の働きに見合うだけのもの」
「それをしたからこそ」
「出して頂いたのですか」
「むしろ論功が遅れて済まぬと思っている」
信長にしてみれば、というのだ。
「長い戦じゃったからな」
「いえ、それはお気になさらずに」
「別に」
家臣達はこう信長に返した。
「そのことについては」
「特に」
「そう言ってくれるなら有り難いがな。しかしな」
「加増や茶器のことはですか」
「気にはですか」
「することはない。出すべきものを出しただけじゃ」
あくまで、というのだ。
「当家は今どれだけの石高じゃ」
「千百八十万石です」
平手が答えた。
「それだけのものがあります」
「そうであろう、それだけあればな」
「我等への加増はですか」
「どうということはないわ」
尚信長の直轄領は六百万石である。
「気にすることはない」
「では殿」
「これからもです」
「我等は殿の御為に働きます」
「そうさせて頂きます」
「頼むぞ」
微笑んで返す信長だった。
「これからも」
「はい、お任せあれ」
「我等粉骨殿の為に働きます」
「織田家の為に」
多くの加増に宝を受けてだ、彼等の忠義はより篤いものになっていた。それは明智も同じで感極まるといった顔でこう言うのだった。
「これで母上にも妻にも」
「楽をさせてやれるか」
「はい、有り難きことです」
こう信長に言うのだった。
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