運命の決着編
第120話 運命の外へ
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た。貴虎はその病室に足を踏み入れた。
いた。光実だ。ベッドで(嫌な形容だが)死んだように眠っている。
「すまないが、碧沙、少し二人きりにしてくれないか」
「うん、わかった」
碧沙が病室を出てから、貴虎は松葉杖を突いて光実のベッドの横まで行き、置いてあったイスに腰を下ろした。
弟の寝顔は疲れ切っている。こうして話しかけるのは眠りの妨げになってよくないかもしれない。それでも今なら、今までになかった言葉を紡げる気がした。
「色々、あったな」
世界はまだ救われていない。ヘルヘイムの侵食は終わっていない。それでも貴虎は大きな荷を下ろした気分だった。こんなに自分がカラッポなのはいつ以来か。
「お前も、色々あって、大変だったろう」
貴虎は眠る光実の頭を撫でた。
「起きたら、話そう。聞きたいことがたくさんあるんだ。光実。教えてくれ。俺が知らないお前のことを」
光実は反応しない。身内が一声かけた程度で回復するなど、それこそドラマでもない限りありえない。
貴虎は自嘲し、再び松葉杖を持って病室を出ようとした。
「……に、いさ、ん?」
貴虎の背中に、確かにその呼びかけは届いた。
「光実!?」
貴虎は松葉杖を捨て、ふらつきながらも急いでベッド横に戻った。
「兄、さん」
「ここだ、光実。俺はここにいるぞ!」
光実がベッドから手を伸ばす。やせこけて骨と皮だけになったような腕だった。
貴虎はその腕を取り、強く光実の手を握った。
話さねばならないことがたくさんある。けれども今だけは、弟の手を握って、弟が生きていると実感したい。
「兄さ、ん」
「何だ?」
「ぼく、ちゃん、と、で、きた?」
もうだめだ、と思った。涙が。ずっと堪えてきたものが、溢れて止まらなかった。
「ああ、お前はよくやった。よくやり通した。俺の自慢の弟だ」
光実は、頬を引き攣らせるように、笑った。
貴虎は泣きながら、いつまでも光実の手を握っていた。
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