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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十七 結末
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「先生…オレは、一度死んだんだ」

過去の記憶を掘り起こす。ぽつぽつ語る彼女の心の内を、綱手とシズネは神妙に聞き入った。


「病気で死にかけたあの時。本当に辛くて苦しくて……どうして自分だけがこんな目に、って腹が立って。でもどんなに周りを憎んでもこの世を恨んでも…。誰も助けてくれなかった。誰もオレに手を差し伸べてくれなかった。だからもう、自分は死ぬんだって諦めてた。生きる気さえ無くなっていた………そうしたら、」

苦々しげに語る声が不意に途切れる。
やにわに顔を上げたアマルはどこか遠くを見ていた。綱手ではなくシズネではなく、遥か彼方にいる誰かを。
そうして口に出した声音は、切ないほどの思慕に満ち溢れていた。

「『神サマ』が来てくれた」


自らが生き返ったその瞬間をアマルは忘れない。忘れることが出来ない。
病魔に魘され、死を覚悟した自分を。
死の淵に溺れ、もがき苦しんでいた自分を。
彼は助け出してくれた。救いあげてくれた。
手を、差し伸べてくれた。

「だからこの命は、『神サマ』のものなんだ」

アマルが『神サマ』について知っているのは『ナルト』という名と、眩いばかりに輝く金の髪のみ。
だから波風ナルと初めて会った時に、彼女をまじまじと見たのだ。どことなく『神サマ』に似ている気がして。
けれどどれだけ似ていても、本能が違うと叫ぶ。
彼とは似て非なる存在だと、直感が囁く。
朦朧とする意識の中で垣間見た、穏やかな眼差し。耳朶に残る、優しき声。
自分に生きる希望を与えてくれた、アマルの『神サマ』。
だからこそ…―――――。

「『神サマ』に会えるならオレはなんだってする。たとえ…――」

そこで一度アマルは言葉を切る。口を噤んだ彼女を前にして、綱手は察した。
言葉の端々からひしひしと感じる彼女のひたむきな想いを。

『神サマ』に会う為ならば、何でもする。
何を引き換えにしても、何を犠牲にしても、『神サマ』に会おうとする。
誠実な者は心のままに行動する。
一途な想いは時として他をかえりみない。
それこそ…――悪魔に魂を売ってでも。


「先生…オレにとっては『神サマ』だけなんだ。『神サマ』だけがオレの唯一の居場所なんだ」
アマルの本音。
本心からの弟子の言葉は、師である綱手の心に多大な衝撃を与える。特に『唯一の居場所』という語は鋭い響きを以って、いつまでも綱手の耳に残っていた。



捨て子だったアマルは病に倒れた一件以来、『神サマ』以外を信じられなくなった。
だからこそ『神サマ』を捜す旅に出た彼女だが、一向に会える気配が無い事に日々焦燥感を募らせてゆく。

それがピークに達したのは、二度目に死にかけた瞬間。
再び覗いた死の淵に、アマルは内心期待していた。
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