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渦巻く滄海 紅き空 【上】
七十七 結末
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は本物の蛇と何等変わりはない。

完全なる蛇。見事な変化だった。


〈……最初からカブトが口寄せした蛇はニ体。その内の一体は地面に潜り、代わりにお前が蛇に変化。自来也の気を引きつけた隙に背後から本物の蛇が襲い掛かった…ということじゃな〉
冷静に判断したパックンがナルにも解るよう噛み砕いて説明する。完全な蛇そのものに成り代わった青年がパックンに同意するように、しゅうしゅうと舌を鳴らした。

「…まだわからないのかい?」
青年とナルの会話を聞いていたカブトが口を挟む。横合いから割り込んできたカブトを一瞬青年が煩わしそうに睨んだ。術を解く。
寸前まで蛇の巨体がいた場所で、人の姿形に戻りし彼は、何事もなかったかのように最後の変化を行った。
再度捲き上がる白煙。霞の中、見覚えのある姿がナルの瞳に飛び込む。思いがけない光景に彼女は思わず「え、」と声を上げた。


ナルの目の前にいるのは…―――アマルと共にこの場へやって来た、子豚のトントン。

本物なのか偽物なのか。あまりにも酷似し過ぎて、区別がつかないほどの変化に、ナルは暫し呆けた。ややあって、鋭く問い質す。
「え、あ……じゃ、じゃあ、トントンは…?本物のトントンは何処にいるんだってばよ!?」

アマルが大怪我を負って以来、トントンはナルが預かっていた。綱手もシズネもアマルの治療で手が離せなかったからだ。昨晩も、泊まっていた宿の一室で一緒に寝ていたはずなのだが、まさか……。


「安心しなよ。子豚くんなら、宿でぐっすりだから」
戸惑うナルに対し、青年は落ち着いた風情で答えた。
トントンが無事だと解ってホッとするのも束の間、ナルは青年を改めて睨み据えた。余裕綽々な態度が気に触る。
そして何よりも、自分が接した動物達が彼だったなどと信じたくはなかった。

「……お、まえ…一体、誰なんだってばよ…」


何が本物で何が嘘か。どれが偽物でどれが本当か。
青年の変化はナルを混乱に陥らせる。彼の変化を見破る事が出来るのは、現状では嗅覚が鋭い忍犬のパックンくらいだろう。
ナルとて変化の術はよく用いる。しかし青年の変化はその比ではない。変化対象に完璧に成り切っている。
現に、三忍である自来也や綱手も見破れなかった。かなり高度な技術である。


「そういえば、自己紹介がまだだったね」

宿の猫・子豚のトントン・大蛇丸の蛇…次から次へと変化し、ナル達の眼を欺いてきた。
その正体である当の本人は、今気づいたとばかりに朗らかな笑顔で、ナルの質疑に応じた。


「俺の名はシン―――大蛇丸様の部下だよ」

穏やかな物腰で青年は名乗った。その笑みはカブト同様、人好きのする優しげなものである一方、ナルに寒気をもたらした。
「よろしくね?波風ナルくん」


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