魔石の時代
第三章
世界が終わるまで、あと――3
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欲望とは、いわば贅肉のようなものかも知れない。
そう言ったのは誰だったか。だが、言い得て妙だと当時の自分は納得した記憶がある。
当時――つまり、世界の復興が進み、ある程度の規模の集落が生まれ、そこに住んでいれば当面生命の危険だけは考えなくていい……場所によっては、食うに困る事もない。つまり、心に余裕を持つ事ができるようになった頃だったはずだ。
心に余裕が生まれれば、それまで気にならなかった事が気になるようになる。生きる事に必死だった頃には、決して考えない事を考えるようになる。それ自体は別に悪い事ではない。サンクチュアリの活動がより活発になったのも、彼らに余裕が生まれたからだ。食料の供給もある程度安定したため、農業もより効率的で質のいい物を、と考えられるようになってきた。音楽や演劇、絵画といった文化が再び育まれていくようになったのも、余裕が生まれたからこそである。
ただし、残念ながら良い事ばかりではない。より多くを求めるという欲望は、『奴ら』が残した瘴気と結びつき、魔物化を誘発した。とはいえ、それ自体は昔から――それこそ旧世界でもよくあった事である。むしろ、聖杯が失われたからか、それとも全体的にはまだ余裕がない人間が多いのか、数はまだ減少したままだと言える。もっとも……そうでなければ、とてもではないが新生サンクチュアリだけでは対処しきれなかっただろう。現時点でも充分に対応しきれているとは言い難い。世界に復興の兆しが見え始めたとはいえ、魔法使いの数……ひいてはサンクチュアリの構成員は決して多くない。その勢力、影響力もまだ限定的なものだ。他の組織は玉石混合で、求心力としてはいささか心もとない。この場合の求心力というのは、魔法使いの統括という意味で、だ。いや――求心力がないというのは正しくない。サンクチュアリが最大勢力だと言う事実は変わらないが、魔法使いによって構成される組織はその数を増やしつつある。ただし、それもまた必ずしも良い意味ばかりではない。
魔法使いの暴走。一部の魔法使いが徒党を組んで、集落を襲う。あるいは、そのまま暴君として君臨する。そう言った事態が各地で起こっていた。
だが、残念ながら現在のサンクチュアリにそれら全てを取り締まるだけの力はない。とはいえ、日々届く救済要請を無視する事は、サンクチュアリの信念――ひいては歴代ゴルロイスの理想に傷をつける事になる。さらに言うのであれば、魔法使いの立場を再び悪化させることにもなりかねない。旧世界の知識を多く残している彼らに、『セルト人の悲劇』の再来に対する恐怖がなかったといえば、それは嘘になるだろう。
理想と現実の違い。そして、静かに差し迫る危険。それらを前にして、サンクチュアリの一部の魔法使いは、とある逸話に解決策を求めた。
異端の救済者モルドレット。世界の終わりに
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