幽鬼の支配者編
EP.20 ワタル迷走
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いと分かってはいたが、今は彼女の……エルザの顔を見たくなかった。
そのため、左手で顔を覆ったまま、壁を背もたれに座り込んでいるのだった。
そのままどのくらい経ったのか……何も考えず、足元の石床の模様をなんとなく眺めていると、ワタルの視界に影が差し、至近に誰かの気配を感じ取った。
「――――い……おいってば!」
どうやら何度か呼び掛けていたようで、肩をゆすられる。顔を上げると、黒髪の買い物袋を持った中年と少年……マカオとロメオのコンボルト親子が心配そうな表情で立っていた。
父親の帰りが遅くなる時は一人で帰っているロメオだが、今は時期が時期。警戒のためにと、父親のマカオと一緒に帰路についていた時に、偶然裏路地で座り込んで動かないワタルを発見し、声を掛けたのだ。
経ったのは10分くらいか……と、視界の暗さがあまり変わっていない事からぼんやりと考えていると、心配そうな表情を少し緩めたマカオが口を開く。
「起きたか……まったく、こんな時にこんなところで寝てるなんて、不用心にもほどがあるぞ、ワタル。お前らしくない」
「……別に寝てたわけじゃ……」
「あ! その手どうしたんだ、ワタル兄!?」
反論を遮ったロメオの目は、ワタルの右手に向いていた。皮が破れて血が滲んで流れ出ている手を見たマカオは只事ではないと判断し、少し考える。
「……とりあえず、うちに来い。ひでぇ顔だぞ」
「いや、俺は……」
「いいから来い。たまには年長者の言う事を聞けって」
それは俺ではなくナツやグレイに言ったらどうだ、と思ったが、反論する気力も無かったワタルは少し躊躇した後に立ち上がり、コンボルト親子の後について歩き出すのだった。
「……着いたぞ。あんまりきれいなところじゃねえが……まあ、とりあえず上がれや」
「ほら、ワタル兄」
「…………ああ」
「ロメオ、救急箱用意しろ」
「分かったよ、父ちゃん」
数分後、彼らの家に着いたワタルはまず右手の治療を受ける。
治療の傍ら、父と子の男二人で暮らしているという部屋を見回す。意外にも整理されており、汚いという印象は抱かなかった。
「(確か、奥さんとは離婚してたんだっけ……)」
「よし、これでいいだろう」
そんな事をワタルが考えていると、これまた意外な事に手際よく応急手当を終わらせたマカオがポンと軽く手当を終えたワタルの右手を叩いた。
「痛った!? おい、なにしやがるマカオ!」
「はっはっは、軽いスキンシップだよスキンシップ」
「オッサンとスキンシップ取る趣味はねえよ!」
ズキリと走った鋭い痛みに呻くワタル。当然の抗議を笑いながら躱したマカオだが、ふと表情を真剣なものに変えると口を開いた。
「……で
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