幽鬼の支配者編
EP.20 ワタル迷走
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保ち続けてどのくらい経ったのか……思考に余裕のなかったワタルには分からなかったが、息が切れ、喉が焼け付くように痛むことから、それなりに時間が経っている事はかろうじて理解できた。
「(クソッタレが、クソッタレが、クソッタレが……)クソッタレがぁあああああ!!」
いつのまにか、人気のない裏通りに来ていたワタルは立ち止まると、それまで胸の内だけに留めていた罵倒の言葉を、人がいない事をいいことに喉が破れんばかりに叫び、右の拳を思いっきり石壁に打ち付ける。
「いっつぅぅぅ…………!」
刺すような激痛に顔を顰めながらも、その痛みと手の皮が破けて流れ出した血が、皮肉にも頭に上っていた血を下げて思考を冷静にさせた。
見れば、壁の方は僅かにひびが入っただけ。ただの石の壁なら、やろうとも思えば魔力なしでも砕く事が出来るのにも関わらず、だ。
砕けたのは己の拳の方。それを自覚すると、それまでより大きな自責と自嘲の念がワタルの胸を覆い尽くした。
痺れていない左手で顔を覆うと、壁に寄りかかるようにしてズルズルと座り込んだ彼は深い溜息を吐く。
「なにが黒き閃光だ……いくら持て囃されようが、こんなもんかよ、ワタル……ヤツボシ。精神が、弱すぎる……!」
左手を掌の皮が破けんばかりに握りしめ、怨嗟の声を上げるとワタルは唇を噛んだ。
大切な仲間としてエルザを見ていた時は、こんな思いに駆られる事は無かった。
彼女を……そう、好きな女として見ると、心が落ち着いたり暖かくなることはある。だが同時に、彼女を『女』として意識すると、自分は『男』なのだと意識して、あるがままの自分ではいられないこともある。
傍から見ればくだらない意地だろう。だが、彼の心はそのくだらない意地を捨てられず、心は不安定になってしまう。
もちろん、いつもそんな精神不安定でいるのではない。
柔らかな肢体や、長い髪、甘い体臭など、エルザに『女』を感じる時、自分が制御できなくなってしまうのだ。
理性の知らないところで、劣等感が征服欲に、嫉妬心が殺意にすら変貌を遂げるなど、20年生きてきたワタルには初めての経験で、戸惑い、恐怖し、自己嫌悪するしかなかった。
今回だってそうだ。
「(エルザを縛るだと? ふざけんな、そんなの一番やっちゃいけない事じゃねえか……)」
自分をこれまでに無いほどに嫌悪した。
エルザの事を対等だと思っているはずの自分が、彼女が自分を気にかけてくれた優しさに嫉妬や劣等感を抱き、彼女の意思すら無視して彼女を自分だけのものにしようとした事を、だ。
「……無様だな、俺は」
自分の思考の醜悪さに、奇しくもエルザと同じことを吐き捨てると、ワタルは重い息を吐く。頭では帰らなくてはいけな
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