幽鬼の支配者編
EP.20 ワタル迷走
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が鼻孔をくすぐった。
「(女の汗は甘い匂いなんだな……)」
あまりにも場違いな感慨がワタルの脳裏にかすめると、ある考えが唐突に浮かんだ。
彼女を自分に溺れさせて、自分も彼女に溺れてしまおうか。
お互いがお互いの存在なしには生きられない……そんな依存の関係になってしまえば、これ以上不快な思いをする事は無い。
鎌首をもたげた凶暴な思考は、ワタルの脳にそう甘くささやいた。
惨めさと不安定ゆえに暗くなっていく思考はその行動を是としようとして、ワタルは更に腕の力を強める。
だが……
「ワタル……痛い」
「ッ! わ、悪い……」
痛みに呻くエルザの声が、彼の思考を現実に立ち返らせた。
「ワタル!」
「ごめん……今は一人にしてくれ」
なにかを伝えようとしたが、それが頭の中で纏まりきらない。
それでも、そのなにかを伝えようしたエルザの声にばつが悪くなったワタルは形式だけといった風に彼女に謝ると、目も合わせずに早足で歩きだした。
「ちょっと、もう少しでご飯よ!?」
「少し走って来るだけだよ!」
「走って来るって、シャワー浴びたばっかりじゃ……ちょ、ワタル!?」
食事の準備が終わりに入ったのか、鉢合わせしたルーシィがワタルを制止するが聞かず、彼はそのまま外へ出ていく。彼女は尚も止めようとしたが、それをエルザが遮った。
「いや、いい。今は、一人にしてやれ」
「でも……」
「いいから! ……私が、浅慮だったのだ……すまない」
「エルザ……」
自分の身体をかき抱き、絞り出されたエルザの声は震えており、何があったのか分からないルーシィにできる事といえば、そんな彼女に声を掛ける事だけだった。
こんなはずではなかったと、エルザは悔やむ。
半壊したギルドから家に帰っていくワタルになにか……自分たちが抱いている怒りや無力感とは違うなにかを感じ取り、弱みを見せない彼があまり溜め込んでしまう前に……と、良かれと思ってやった事だった。
愚痴でもなんでも、捌け口にはなれると思っていた。自分が強くなったと、そんなつもりは毛頭無い。ただ、自分にできる事があるなら……そう考えての事だった。
「(何が強くなって共に重荷を背負う、だ。空回りした挙句、逆に追い詰めてしまっただけじゃないか)……無様だな、私は」
抱きしめられた時に抱いた感情は高揚ではなく困惑。
物理的な距離は触れるほどに近かったのに、彼の心はまるで遠く感じ、ままならないものだなと、砕けんばかりにきつく結ばれた歯の間から自嘲じみた言葉が零れた。
外に出たワタルもまた、エルザと同じように自責の念に駆られていた。
「(クソッタレが……)」
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