#10『その名は日常』
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から突然かけられた声に飛び上がってしまった。振り向くと、一メートルほど先にいたずらっぽい笑顔を浮かべたキングが立っていた。いつもの黒いロングコートは羽織っておらず、普段着なのだろうか、白いシャツと黒いベストを合わせていた。もともと落ち着いた顔立ちなので、こういったモノトーン調の服装が非常によく似合って格好いい。自然と頬が熱くなってきてしまい、あわてて目をそらす。
「び、びっくりした……おはよう、キング」
「うん。おはようメイ。驚かせてごめんね。あんまり君がビクビクしてるもんだからつい、ね」
「つい、じゃないわよ……心臓が止まるかと思った……」
どうやら今朝も、穏やかな朝はむかえられなかったようだった。
***
メイがキングのところに来て何をするか、と言えば、別段何もしない、というのが答えになるだろう。基本的にメイにもキングにもこれといった趣味はない。なのでそれらで暇をつぶす、と言ったこともあまりないからだ。
基本的にはキングが何かをするのをぼんやりと眺めていたり、たまにキングがどこからか取り出してきたカードゲームで遊んだり。まぁ、メイが求めているのはキングがいる、という事に関する安心感なので、暇でもあまり問題はない。彼がいることで感じられる安心感は、ファーストリべリオンのときから格段に増した気がする。
メイには、過去の時代の自分の記憶があまりない。なんとなくぼんやりと思い出されることはあるが、鮮明ではないため、それが何をあらわしているのかはさっぱりわからない。メイにあるのは、過去の自分たちが持っていたのであろう感情や、それに起因する既知感のみ。
それでいい、と思っている。たしかに昔のキングたちがどんな人間だったのか分からないのには多少の不安を抱かなくもないが、そんなに問題がある話でもないだろうと思っているし、何より戻ってこない過去より、これからの未来のことを考えていた方が楽しい。
ふと、メイはここ暫く気になっていたことを聞いてみることにした。
「……ねぇ、キング」
「ん?どうしたの?」
分厚い本を読んでいたキングが顔を上げる。
「そう言えばさ、あなたって起きる時間にばらつきがあるわよね。早い時は私より早いのに、遅い時は私より遅い」
「ああ…………遅い時はね、夢を見るんだ」
「……夢?」
「そう。内容はいろいろあるよ。基本的には過去の時代の記憶かな……一昨日は『前回』の記憶を見た。ほかにも、これから起こるだろうことを見ることがある」
「……それって」
「うん。予知夢、ってやつなのかもね……まぁ、本当にそんな能力を持ってるような奴とは、制度が違うんだろうけど……」
そう言って苦笑するキング。
夢。メイはあまり夢を見ない。
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