#10『その名は日常』
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行くわけにはいくまい。メイは洗面台で顔をあらうと、髪の毛をとかす。最近は手入れをするようになったからだろうか、以前よりも艶やかになった気がする。それからクローゼットを開けて、その中にある無数の洋服を眺めた。
「相変わらずすごい品ぞろえよね……」
クローゼットに収められている洋服の数々は、メイが知っている中でも最高級の一品たちばかりだ。肌触りもいいし、デザインも可愛らしいものから機能的なものまで揃っている。その大半がキングが趣味で、もしくはシュートが厳選して集めてきたものらしい。と言うかほとんどシュートが集めて来たという。
聞けば、ソーサーの修理も彼が担当しているとのことだった。全くもって彼は非常に高性能な人間だと思う。戦闘力もあるし、センスもあるし、料理もできるし。ソーサーのことならかなりわかるが、メイはなんとなく自分の料理の腕に自信がない。今度なにか家庭料理でも教えてもらおうかと思う。将来的にキングのために食事を作ることになるのかもしれないのだから、多少は上達しておいて損はない――――
「――――っ!?」
そこで自分が、無意識のうちにキングと二人きりの生活をする未来を想像していたことに気づき、再びメイは赤面する。違う、あれは別にそう言う意味じゃなくて、厨房に立つことがあるかもしれないからって意味で、そんな深い意味じゃ……と心の中で代弁してみるが、熱くなった頬は冷めない。
なんとか自分を落ち着かせると、今日は白いニットセーターを選ぶことにする。下は薄紫色のロングスカート。どちらもシンプルだがメイの好みに合わせてあった。これらをそろえたのはレギオンにメイが合流する前なのだから、すごい洞察力だと思う。それとも、前世の自分たちも同じような趣味だったのだろうか。
パールピンクのパジャマを脱ぐと、代わりに取り出した洋服を着る。さらさらした肌触りが心地いい。
部屋を出ると、廊下には誰もいなかった。一度、廊下でリビーラが待機していて非常に驚いたことがある。あの時は本気で心臓が止まるかと思った。
メイがこの基地の中で道順を覚えているのは、食堂と、それからキングの部屋だ。最初に来た時に立ち寄った部屋はいわば《執務室》で、その奥に彼の自室がある。
執務室――――通称《玉座の間》の巨大なドアに手を当てると、自動的に扉が開く。相変わらず暗い部屋だが、既に何度か立ち入った今となっては、すらすらとキングの部屋に向かうことができた。
部屋の扉は、荘厳な玉座の間と相反するようにいたってシンプルだった。というか彼の自室にはほとんどベッドや簡素な机しかない。普段なら彼は玉座の間で過ごしているからだ。とりあえずその簡素な扉をノックしようとして――――
「メイ、僕はここだよ」
「ひゃわっ!?」
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