禁断の果実編
第105話 “ビートライダーズ” A
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舞と光実のデュオパートに入ったところで、光実の動きが――崩れた。
当然だ。光実はダンスを離れて久しい。頭が付いて行っても、覚えている通りの動きができない体になっていた。
光実が足を縺れさせて尻餅を突いた。
「ミッチ! ごめん、大丈夫?」
「は、い。ごめん、なさい。僕はだいじょう、ぶ」
――ごめんなさい。
――僕は大丈夫。
「ミッチ?」
「僕は、大丈夫――だって、僕の代わりに兄さんが、犠牲に、なってくれたから」
フラッシュバックする。マスクを着けられて倒れた貴虎。光実を助けるためにボロボロになっていた貴虎。悪寒が全身を巡った。
「あ、ああ、ああああ!」
「ミッチ、ミッチ!?」
敷いたレールを進ませようとする貴虎が疎ましかった。ビートライダーズを「クズ」と言った貴虎に怒った。人類選別にいつまでも悩む貴虎をふがいなく感じた。碧沙を人質に取られて傀儡とされた貴虎に幻滅した。
「光兄さん、おちついて…! 光兄さん!」
疎ましくて、苛ついて、いっそいなければいいとさえ考えた兄。
けれども、今のままでは本当にいなくなってしまう。生命エネルギーを吸い上げられて、光実のようにただの燃料として弱っていき、衰弱死してしまう。
「兄さん…! 貴虎兄さん! 僕が、僕が……あ、あ、ああー!!」
光実は頭を抱えて泣いた。恥も外聞もなく涙を流した。
「わかってる! 光兄さんがのぞんでやったんじゃないって、わたし、わかってるから!」
ヘキサが背中から光実を抱き締め、必死で光実を宥める言葉を言い続ける。だがなお光実は叫び続ける。まるでヘキサの声が――外界の音が欠片も届かないように。
その時、別のぬくもりが、正面から光実を抱き包んだ。
泣く光実を見下ろし、舞は呆然としていた。
(こんなふうになっちゃったの? あのミッチが、貴虎さんのことで)
舞は思い切って自分も光実を胸に抱き込んだ。
ぴたり。光実の声が、動きが、止んだ。
「ま、いさ、ん」
「よかった。あたしのことは分かってくれるんだね」
袖が引かれる。光実が舞に縋っている。
「あったかい……」
「うん」
「僕だけこんなあったかいとこにいて。兄さんはもっと辛いとこにいるのに」
「でも、ミッチも辛いでしょ?」
ずる。肩に置かれていた光実の額が滑り落ち、ちょうど鎖骨の下で止まった。
「ごめ、なさっ……ごめんなさい、兄さん…! 兄さ…ぼく、僕の、せいで…っ、うあ、あああ…!」
舞は光実の頭を抱え込んだ。光実が泣き止むまで、ずっと。
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