質問−しゅうげき
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いるため、偽装鏡面は解除されていた。
迷うことなく洞窟の中に足を踏み入れる一夏。
洞窟の中に入った先にあったのは、赤い光に照らされた施設だった。
中央にある水槽のような物が赤い光の正体で、これこそが一夏がここに訪れた目的そのものだった。
「やあ乙姫ちゃん。今日も活の良いのが釣れたよ」
そう言って一夏は肩に下げていたクーラーボックスを床におろして、そこから先ほど釣り上げた大物を水槽に見せる。水槽の中に、一夏の言う乙姫なる人物の姿はどこにもない。しかし、彼女は確かにそこにいるのだ。
少なくとも、一夏の瞳には確かに彼女の姿が映っていた。
「━━えっ?」
次の瞬間、一夏の表情に曇りが差した。それは突然のことに困惑したような、あるいはたった今知らされた出来事に驚愕したような、もしくはその両方ともとれる表情だった。
ヴゥー!ヴゥー!ヴゥー!
けたたましいサイレンの音が辺りに響き渡ったのは、まさにその時だった。
「……そうか。来てしまったんだね」
落ち着きを取り戻した一夏は、どこか達観したような表情を浮かべて、水槽を見つめる。
このサイレンが何を意味するのか、一夏は知っている。
神様が俺たちにくれた、嬉しくて悲しい、俺たちだけの物語。その序章を知らせるサイレンこそがこれなのだ。
「大丈夫。俺はここにいる。何時までも……何時までも……」
まるで不安がる年下の子供をあやすように、一夏は水槽をそっと撫でた。
そして、釣り上げた魚とクーラーボックスをその場に置き去りにしたまま、一夏は洞窟━━“ワルキューレの岩戸“を抜け出したとたんに、即座に走り出していた。
岩戸に入る前まで西にあったはずの太陽が、反対側に見えることから、偽装鏡面が解除されてヴェル・シールドが展開されたことが容易に想像できる。
岩戸は直接一夏の新たな目的地へと続かない。そのため一端岩戸をでてから山を下り、アルヴィスへ続くゲートを開かなくてはならない。
と、思っていたその瞬間、一夏の目の前にそのゲートが地面から生えだした。彼女が━━乙姫が手助けしてくれたのだ。
彼女の好意を素直に受け取った一夏は、ゲートから地下へと潜る。
この時、島の大人たちと一部の子供たちは悟った。たった今からこの島の平和は、敵に蹂躙されたのだと。
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