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【短編】竜門珠希は『普通』になれない【完結】
JK黒魔導師竜門珠希の憂鬱
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警戒されるだろうが――そのまま夕食の続きに取りか過労としたそのとき、玄関から女の子の明るい声が聞こえた。

「たっだいま〜っ!」

 玄関の扉を乱暴に閉める音、(ローファー)を汚く脱ぎ捨てる音、板張りの廊下をドタドタと駆ける騒々しい足音、バッグをリビングに――音があまりしなかったことからすると、おそらくソファーの上に――放り投げた音。背中どころかこの家じゅうに目を持っているかのような珠希の想像に一寸たりとも違わぬことなく、一人の少女がキッチンに立つ珠希に声をかけてくる。

「おねーちゃんっ、今日のご飯は?」

 珠希をおねーちゃんと呼ぶのはこの家族に、この家に、この世に一人しかいない。むしろ一人で十分だし、呼び方も昔っからの「おねーちゃん」でいい。お姉さまとか言われたらその瞬間、珠希は本気で実妹・竜門(りゅうもん)結月(ゆづき)にグーパンを繰り出せる自信があった。

「およ? この様子だと青椒肉絲で確定?」

 頭痛の種を珠希にまいた結月(ヤツ)が、答えを返さない珠希(あね)をよそに背後からその手元を覗き込む。

「……ねえ、結月」
「ん? なーに? どしたのおねーちゃん」

 中華風スープに入れる木耳を切る手を止めることなく尋ねる珠希に、いつの間にか冷蔵庫から2リットルのペットボトル入りのお茶を取り出し、直接口をつけて(あお)っていた結月が尋ね返す。

「結月はさ、何かおねーちゃんに言わなきゃいけないことないかな?」
「ぅえ゛っ?」

 単刀直入。ど真ん中に剛速球を投げ込んだ珠希の問いに、ペットボトル入りのお茶をあおっていた結月がまるで石化呪文(ブレイク)でもかけられたかのように固まった。
 おいコラ我が妹。あたしは黒魔法使いじゃないぞ。ついでに言うとバジリスクやコカトリスでもないんだ。しかも顔から表情まで消えてるし。

「何か、あるんだね? 結月」
「えっ? あ、いや……ぁ、特に今言うほどのことでも……」

 まな板の上、手元を見ることなく具材を刻みながら見つめる珠希に対し、結月は視線をそらし、明らかに何か隠してますよー、という態度。さすがに二人揃って美人姉妹と言われて(注:正しくは「言われているらしい(・・・)」であって、事実かどうかは不明)いようと、女同士、姉妹の上下関係ははっきりしているようだった。

「ほんとに?」
「う、うんっ。ほ、ほんとにマジで何も問題ないですっ」

 わたわたと慌てる結月に、ちょっと可愛いなと思ってしまう珠希であったが、それも結月が持って生まれた天性の愛され属性(そしつ)だ。父譲りの整った顔立ちは珠希も持っているのだが、結月は珠希にはない相手の庇護欲を駆り立てる雰囲気まで母親から習得(マスター)して生まれ、そしてそれをちゃんとスキルとし
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