【序章】 黒き刃
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さらしながら自己の心配をしない。
コンマ以下の差。
異形の竜の牙が少女の、”刃の竜の大切なもの”の半身を咬みちぎった。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」
殺意も怒気もない悲痛な大絶叫、振るった刃は異形の竜に届かず幾重にも大地を抉る。
第二波を放とうとする刃の竜を嘲笑うように、愉快そうな咆哮を残し、異形の竜が溶けるようにして消えていった。
さっきまでの戦闘音が嘘のように、静まり返った空間。
死を目前とした少女の前に立った竜は、問う。
――なぜ、ここに来た。
「あなたが、心配だったから」
当然のように、少女は云った。
心配され、守られる存在であるはずの少女が、なんの迷いもなく心配だったから、と。
――ふざけるな、お前が来てなんになる。ただ、命を無駄にしただけじゃないか。
「ふふ、あなたが……それを云うの?」
苦しいだろう、辛いだろう。
それでも、少女は刃の竜に笑顔を向ける。
「あなたを助けられた、それで十分」
刃の竜は、答えない。
「この命を、あなたのために使えたんだもん。満足だよ」
竜は、泣いていた。
その先に続く言葉が、わかってしまったから。
「だから、ね。……最期は、あなたの手で……」
竜は、少女の言葉に静かに答えた。
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