【序章】 黒き刃
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ているのは同じ竜。
巨大な、しかし先端はどんな刃物よりも鋭い竜の翼。すでに山を三つ一刀のもとに両断しているそれを、異形の竜は身にまとう魔力であっさり受け止めてしまった。
二体の竜の戦闘スタイルには大きな違いがあった。
異形の竜は四足と二対の翼を持ち、その膨大な魔力で遠距離からの放射系の攻撃を得意としていた。
対し、刃の竜はコウモリのように前足と翼が一体化していて、その両手の翼刃を用いたゼロ距離戦闘こそを最大の戦力としていた。もちろん竜である以上ブレスなどの遠距離攻撃を行使することは可能だったが、専門性が違う。
動きの止まった刃の竜、時間にしてみれば刹那であったが竜の争いにその刹那はあまりにも長すぎた。
魔力が蛇のように変化し、翼ごと刃の竜の腕をへし折った。
今まで何度も鋼をも凌駕する刃の竜を傷つけてきた魔力の蛇。刃物以上に刃物らしい刃の竜の翼ごと締め付けていながら、切断されるどころか傷ひとつつかないそれは、両者の魔力の差をみせつけているかのようで。
しかし。
悲鳴は、ない。
体を、前へ。
ゼロ距離。
長い拮抗と、己の優位を確信した異形の竜の油断がようやく招いた、最良の間合い。
異形の竜が焦ったように魔力の蛇で刃の竜を引き剥がそうとするが、折れたはずの腕が鱗を掴みそれを許さない。
一閃。
山を中腹から両断する刃が、異形の竜をとらえた。
波紋が浮かぶ空中を蹴り、後退した刃の竜の眼下。異形の竜が恨めしげな声をあげながら、高高度からマグマの這う大地に叩きつけられた。
咆哮。
二度と近づくなという、怒気と殺意を溢れんばかりにはらんだ大絶叫が刃の竜から放たれる。
しかし、異形の竜は依然としてその態度を改めない。
知っているのだ、刃の竜がもう限界であることを。自身とて限界は近いが、蛇によってもたらされるのはなにも外傷だけではない。
あと一回、蛇が触れれば刃の竜蝕む毒はその抵抗力を上回る。
最後の激突。
異形の竜の勝利で終わろうとしていた闘争に。
それは、介入した。
「――――!」
反応は、異形の竜が早かった。
生物が立ち入れないまでに荒れた大地にポツリ、紅い少女が立っていた。
まだ親に手を引かれていてもおかしくない、幼い人間の少女。
場に似つかわしくない以前に、まず屈強な戦士であっても生命活動に支障をきたすこの地に、薄い紅のワンピースと同じ色のケープのみでなんら不自由なく存在している点ではある意味竜よりも異様な少女。
そんな少女が、己の見に迫る危機すら無視して叫ぶのは刃の竜の真名。
治癒しかけの腕かかる負担を無視して、刃の竜が急降下する。
なぜ、ここにいる。
なぜ、自分の勝利を信じずここにきた。
なぜ、己の身を異形の竜(やつ)の前に
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