【序章】 黒き刃
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──その場所は、酷く廃れた大地だった。
本来ならば青々とした美しい草花が覆い尽くしていたはずの大地は、今は全ての植物が死を迎え、亀裂の入った大地から突き出すのは赤い脈動を繰り返す溶岩石、大地を覆うのは遥か彼方で爆発を繰り返す火山の灰。世界を浄化するわずかな植物が死に絶えたこの場所の空気は淀みきっている。
大地を侵す真紅の死神は徐々に荒野にまで迫っていて、あと半時も経たぬ内にすべてが焼き付くされ、後に形作られる新たな大地の下地となってしまうのは明らかである。そこに生き物が抵抗するすべはなく、できることと言えば逃げることに他ならない。
少し前までそこは、平和だった、緑溢れる場所だった。
この場所が地獄と化した原因。
それらは今、荒れ果てた大地を離れ戦場を空に移していた。
竜だった。
黒い、黒い、二体の巨大な竜だ。
黒い、という共通点はあるもののその二体の竜は全く違う容姿をもっていた。
一体は、禍々しい魔力をまとう異形。
一体は、全身の至る部分が刃物のようになっている。
彼らが闘争を始め、すでに長い時間が経過している。ほぼ無限に近い体力をもつ竜という存在、しかし相手も同じ竜である以上その優位性は意味をなさない。両者の体には、その強固な鱗と体毛をものともしない互いの力でつけられた痛々しい傷がところせましと刻まれている。
とはいえ、ドッペルケンガーでもない二体、実力の差か、消耗が激しいのは刃を身に宿す竜の方らしい。真紅の瞳は疲労と、それ以上の怒りに満ちている。それは、力なき自分に対してか、相手の非道な行いに対してか。
刃の竜は、怠惰な竜だった。
森羅万象の一切興味をもたない、永遠に近い命を持ちながら知識も力も求めず、全てを面倒だと、全てを下らないと一蹴し傍観を貫いていた。
なにもせず、なにも見ず、なにも考えない。
無意味で怠惰な毎日。
そんな彼がようやく見つけた、大切なもの。
どうでもよかった生に意味を与えたくれた、大切なもの。
それを、かの竜が、禍々しい魔力をまとう竜が壊さんとしている。己の私利私欲のためだけに、自分の大切なものを破壊しようとしている。
それは、絶対に許されないことだ。
刃の竜の足元に、波紋が浮かぶ。まるで、そこが水面であるかのように空間が波打つ。大気が魔力に感化され、眼科の地獄がよりいっそう勢いを増す。
牙を剥いて。
全身の刃を逆立てて。
刃の竜は、異形の竜へとびかかった。
その勢いはすさまじく、とてもではないが空を飛んでいる巨体の動きではなかった。そう、まるで”空中を蹴っている”かのような急加速。
例外なく見上げるような巨体をもつ竜が、欠き消えるような勢いで移動する。脆弱な地上の生物が相手ならば、これはこの上ない恐怖だろうが、生憎相対し
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