第一部「数奇なる騎士」
第08話「猪の叫び」
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ヒリュウ改の医務室内の個室安静部屋。
先の戦闘で負傷したタカヤは、ここで絶対安静となっていた。
「…あー…」
アダムとラッセル、そしてなんとイングラムの進言により、カチーナと同じく営倉入りを免れた彼は、こうして寝る日々を送っていた。
しかし、彼にとって身体を動かせないことほど辛いことはない。
簡単な筋トレをしようにも、ベッドが狭いせいで思うように出来ない。
最も、そんなことをすればラーダに怒られるのが関の山だが…。
暇だ…。
そんなことばかり考えていた。
そこへ、コンコン、と小気味のいいドアを叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ…」
タカヤが重苦しそうに身体を上げながら応えた。
「…どう?具合は?」
「ミナミ…」
やってきたのはミナミだった。
「…ぼちぼち、いや、ご覧の有様だ。ラーダさんが良くしてくれてるんだがな…」
タカヤが両の掌を天井に向ける。
「そっか…」
ミナミは静かに呟き、イスに腰掛けた。
「…俺が担ぎこまれた時、お前泣いてたんだってな?」
タカヤが笑った。
「な…!?誰のせいだと…!」
「俺のせいだよ、言われなくても分かる。」
ミナミが言い切る前に、タカヤが遮る。
「分かってるよ、そのくらい俺でも…お前らに迷惑かけたってのは…」
タカヤは続ける。
「寝てる間にも、考えることはあった。如何に俺の頭に血が上ってたかも、これでもかって理解できた。正直、情けない限りだ。こんな…」
タカヤの声から、だんだんと力が抜けていく。
「こんなんじゃ、アマテラス2は返上しなくちゃならないな…こんな……すま…。」
バシン。
言い切る前に、今度はミナミの平手が飛んだ。
「何柄にもなく弱気になってんのよ。何こんなことで一人で沈んでんのよ…!」
ミナミの声には、涙が篭っていた。
「あんた、私が言ったこと忘れたの!?それをなんで副隊長を献上するなんて言うのよ!このバカ!そんなことしても…ライトには…ぅっ…」
「ミナミ…」
「あんたは…あんたは…!」
「ミナミ…ごめんな、ミナミ…」
ミナミは、無意識にタカヤにすがった。
タカヤもまた、その求めに答え、ミナミの細い身体をぎゅっと抱きしめていた。
***
「……」
「…入りづらいね。」
病室の外。
ライトとミナミが立っていた。
「外まで丸聞こえだというのに…」
「まあ…いいんじゃない?」
ナナは苦笑しているが、ライトは変わらない。
「まあ、あいつが立ち直るのであれば、な。」
そう言って、ライトは立ち去った。
「もう、こんな時までつれない…」
ナナは益々苦笑した。
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