第二部
第二章 〜対連合軍〜
九十八 〜虎牢関〜
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それとは裏腹に勝ち目のない喧嘩ばかりしてきた気がする。
……ふっ、ならば此度も覆してやるまでの事だ。
一頻り禀らと協議の後、調練場へと足を運んだ。
この規模ともなれば、最早私が事細かに指示を出す事はあり得ぬ。
だが、兵らの練度を把握しておく事も必要だ。
「右翼! 敵を押し込め!」
「怯んだらアカンで!」
彩と霞が、騎馬隊同士での調練を行っている。
彩も優れた指揮官だが、動きの良さはやはり霞の方が一枚上手らしい。
……その一角で、緊張とは無縁の光景を見つけた。
「恋、鈴々。何をしておる?」
「……兄ぃ」
「あ、お兄ちゃんなのだ」
二人並んで、肉まんを頬張っている。
それも一個や二個ではなく、湯気を立てている袋がいくつも置かれていた。
「二人は歩兵の担当であろう。調練は終わったのか?」
「……ちょっと、休憩」
「お腹が減っては戦にならないのだ」
さぼっているのであれば叱らねばならぬが、さて……。
「しっかり休むのも大事ですぞ! 水分も適度に補給するのです!」
と、ねねが兵らの間を動き回っているのが見えた。
ふむ、合間の休憩という事に偽りはなさそうだな。
「……兄ぃ。食べる?」
恋が、肉まんを一つ差し出してきた。
今のところ、空腹は覚えておらぬが……。
「……ジーッ」
純粋な好意とわかっているだけに、断りにくいな。
「美味しいのだ」
「……わかった。一つ、いただくとしよう」
「……ん」
恋から肉まんを受け取ろうと、私も手を伸ばす。
……が。
「……(フルフル)」
何故か、恋は頭を振るばかり。
「恋。何が違うと申すのだ?」
「……あーん」
「……?」
ずい、と恋が肉まんを眼前に突き出してきた。
「何がしたい」
「……だから、あーん」
更に、恋は肉まんを押しつけてくる。
一体、何の真似だ?
と、恋が俯いた。
「……兄ぃ。恋の事、嫌い?」
「馬鹿を申せ。嫌っている者から何故施しを受けようとするのだ?」
「……でも、兄ぃあーん、してくれない」
意味がわからぬ。
「鈴々。恋は何を申しておる?」
「わからないのだ」
即答か。
「恋。誰がそのような事を申していた?」
「……紫苑から聞いた。好きな人には、あーんしてあげると喜ぶって」
紫苑め、要らぬ事を吹き込みおったな。
恋は純粋故、そのまま受け取ったに相違あるまい。
だが、それを諭すべきであろうか。
いや、素直に受けてやるのが最良であろう。
さすれば、恋が傷つく事はない。
……紫苑には、後で言い聞かせねばならぬが。
「恋。口を開けよと申すのだな?」
「……(コクッ)」
「わかった」
思い切って口を開けると、柔らかな感触が押しつけられた。
む
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