第百七十七話 安土城その四
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「闇の衣の門徒達なぞおらぬと」
「知らぬと言われていました」
「ではあの者達は一体」
「何者なのか」
「闇といえば」
ここでまた言う雪斎だった。
「それはまつろわぬ者の色」
「黒とは違うのですな」
片桐がその雪斎に尋ねた。
「闇とは」
「左様、黒はあくまで黒」
「闇とは違うと」
「黒は北、冬、水を表す色でじゃ」
「闇ではなくですか」
「れっきとした色じゃ」
黒はそうしたものだというのだ。
「似ているどころか全く違うのじゃ」
「左様でしたか」
「そうじゃ、あの者達は闇じゃった」
「そういえば」
ここで言ったのは川尻だった、彼が言うには。
「勘十郎様に取り入っていた」
「津々木」
前田もその名前も不吉な顔で応える。
「あの者か」
うむ、あの者といい」
川尻もまた不吉なものを感じている顔でだ、前田に答えた。
「闇となると」
「不吉なものがあるな」
「あの者も闇の衣を着ていた」
このことがあらためて言われるのだった、ここで。
「気になるのう」
「では闇は」
「確かにおる」
信長がここでまた言った。
「何者か。得体の知れぬ闇の者達がな」
「それでは、ですな」
「そうした闇の者達ともですか」
「織田家は戦いますか」
「そうされますか」
「その者達がどういった考えかはわからぬ」
それはまだ、というのだ。
「しかしな。よからぬことを考えておることは間違いあるまい」
「織田家に対して」
「何よりも天下に対して」
「そう思う。だからこの城は城そのものを結界としたのじゃ」
そこまで考えてだ、この安土城を築いたというのだ。
「墓石も地蔵の石もな」
「そういったものを集めて石垣としたのも」
「そしてこの天主も」
「全てがじゃ」
結界、それだというのだ。
「おかしな者達は都には入れぬ、天下にはびこらせぬ」
「あらゆる神仏の力を使い」
「そうして」
「わしはよく神仏を信じぬと言われるがな」
これは信長が天下でよく言われることの一つだ。だから延暦寺にも強く出たし本願寺との戦でも相当に戦ったというのだ。
しかしだ、それはというのだ。
「実はな」
「違い、ですか」
「それは」
「そうじゃ。わしはわし自身の為に頼まぬだけじゃ」
その神仏を、というのだ。
「天下の為にあるものじゃからな」
「つまり護国ですな」
ここでこう言ったのは非有だった、長宗我部家の僧侶である彼だった。
「神仏は」
「そうじゃ、わし一人が救われて何になる」
「天下が護られ救われてこそですな」
「わしのことなぞわし自身で何とかするし」
それにだった。
「御主達もおる」
「我等も」
「だからですか」
「わしのことは願わぬ」
決して、というのだ。
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