主人公プロフ
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何故そこでおじさんが責任を感じているような顔をしているのかは分からないが、どうやら茅場晶彦は戦うことが出来ずに音楽に傾倒するプレイヤーにも何かしら恩恵があるように仕込みをしていたらしい。
ところが、それはもとより楽器演奏が出来てスキルを上げる必要のない人間が受けることが出来ないという欠点があったということのようだ。我ながら、ことごとく損をするプレイヤーだ。
「たしかに、人によっては煩わしくも感じるか・・・スキルによるブーストでより高度な演奏が出来るようにもなっているんだが、おそらく君には肌に合わない感覚だろう」
「そうだなぁ。現実世界で出来ないことをゲームシステムで出来るようにしても、虚構にしか思えないよ」
「・・・・・・君にとっては、どこまでいってもアインクラッドは、SAOは、”本物”にはならない訳だ。いや、長話をしてすまない。また聞きに来るよ」
「あ、ああ・・・」
もう少し聞いていってもいいのに、とも思ったが、路上ライブで客を引き留めるのは歌と音楽だけだ。声で引きとめてはいけない。
マントを翻したおじさんを見ながらも、俺はいつものようにギターの現を弾いて旋律を奏でた。
――あの人にもあの人の悩みがあったんだろう。
個人の悩みなんて、分かろうとしてそうそう分かれるものじゃない。
歌を聞いた人が、それぞれの感想を詩に抱くのと同じようにだ。だから悩みを解決するのはあの人自身だろう。
不意に、暗くなった空を見上げた。
空には光る星々と闇夜を照らす月。
それはとても美しく、まるで本物のようにしか見えなかったが――夏の大三角もオリオン座も存在しないその星空は、俺にとってはどこまで行っても作りものだった。
「月は空に張り付いて、銀紙の星が垂れ下がる・・・か」
どこまでいってもアインクラッドは、SAOは、”本物”にはならない訳だ――そう呟いたおじさんの言葉が脳裏をよぎった。
茅場晶彦はとうとう最後の最後まで、「自分の世界」に彼を取り込むことが出来なかった。
それは理屈ではなくフィーリングで、感覚的なもので、誰が悪いわけでもない。
ただ、彼はSAOというゲームに向いてなくて、熱中できなかっただけだ。
ただ、この世界に巻き込まれたことが切っ掛けで彼はその”向いていない世界”と長い付き合いをする事になってゆく。何故なら仮想世界の事を、彼は決して嫌いではなかったから。この世界にはこの世界にしかない音楽があって、歌う楽しみがって、伝えられることがある。
ならそこはやはり、彼にとって『現実世界の延長線上』にあるのだ。
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