第一部
2
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「丁寧にどうも。何処ぞの貴族の坊ちゃんっぽい野郎が俺に何の用だ?」
「え、ええ?何言ってるの、ユーリ?」
質問に応じたのは初対面の青年、ライアンではなかった。
自分の後ろに隠れていた筈のカロルが前に進み出て、先ほどまで痛い程に放出していた敵意を潜め、得意げに進言してくる。
「この人は貴族じゃない。新興ギルド【麗黒の華々】の幹部だよ!」
「麗黒の華々…?」
名前だけは聞いたことがある。
以前五大ギルドの一つとして登録されていた【紅の絆傭兵団】。
前首領の非道な行いが明るみに出、その地位を追放された末に現在では解散に追い込まれた。
その後、その位置は暫しの間空位のままであったが最近その後釜に収まる集団が現れたのだ。
創設一年ほどで老舗ギルド【天を射る矢】に匹敵するほどの実力と人数を誇り、異例の早さで新生ユニオンの五大の位への登録を任命された、伝説の隠密集団。
それが【麗黒の華々】である。
彼らはかの有名ギルド【魂の鉄槌】と同じく、滅多に人前に姿を現さない。
素性を隠して行動するため大型組織ながらその詳細を知る者は少なく、それが隠密集団と謳われる由縁である。
「なるほどな…」
それを聞いて納得する。
ユーリが注目するのは男の左手――単なる装飾として偽装されているもの。
金の指輪に散りばめられた宝石の中、一際強い光を放つ石。あれは紛れもなく新型魔導器だ。
帝国騎士や有名ギルドの幹部ですらなかなか手に入らない貴重品。
カロルの言葉が引き金になったのか、自分達を取り囲む野次馬がどよめき始める。
皆【麗黒の華々】の幹部の推参という思いがけない展開に驚きを隠せないのだろう。
「…っていうか、お前はそんな奴に喧嘩を売ったのかよ」
何故か自分のことのように胸を張るカロルを呆れ顔で眺める。
それで我に返ったのか、少年はうぐ、と微かな呻きを漏らす。
罰が悪そうに歪む表情からして今更事の多大さに気付いたのだろう。顔色は曇り、身体を萎縮させている。
「だ、だってこの人が変な事言うから…」
「変な事?」
「今回はあんたら【凛々の明星】に依頼を届けに来たんだ」
穏やかそうな風貌に似合わず、今度はライアンが会話を遮る。
懐から手紙らしき紙切れを取り出すとユーリ達に歩み寄り、何も言わずにそれを押し付けてきた。
白い便箋の表面にはしっかりと【凛々の明星】と宛名が記されている。
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