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今宵、星を掴む
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よりも、アメリカ・フォード社との伝手ができた事で、仕事に10年は困らない事が確約されたことは大きかった。

 裕也はむしむしする社長室で、取引先のお偉いさんをにこやか、かつ親しげに出迎えた。

 「やあ、スコット。向こうの調子はどうだ?」

 「おうよ、裕也、もう少し日本人の労働者をよこしてくれないか。大陸のやつらは、使い出がないぞ」

 「何言っているんだ、100万人にスコップ持たせりゃ道路の1キロや2キロ、あっという間にできるだろ」

 豪快に笑いながら裕也と握手したスコットは、革の滑らかなクッションの利いたソファにどかりと座った。そして秘書が湯呑で出した緑茶を、怪訝な表情で見つめる。
 
 「もっとトラックとトラクターを送ってもらえたら、もっと仕事は進むんだけどな」

 「勘弁してくれ。安定しない電力供給に、整備途中の道路と港。せめて五ヶ瀬川の水力発電所が完成するまで待ってくれないか?」

 裕也は、最近ようやく、スコットが冗談ついでに仕事の話を進めるのに慣れてきていた。彼は、どこかシニカルな物言いで悪態を交えながら要求を伝えてくる。
注文の遅れは設備面の制限からどうしようもないことだった。
終戦と共にフォード社で余剰となった機械類や、その日本法人が日本政府に差し押さえられていた工場の設備を導入して新天地での操業を開始したのだから、そのあたりはスコットも織り込み済みで、今回の訪問も注文の催促と言う名の茶番劇だった。

「1年半前も言ったが、満州でうちの子会社になったら楽だったんだぞ? 
満州だけで7,000万人の需要があって、ステイツは新しいフロンティアに30億ドルの資本を投下。分かるか? 30億だぞ? この国の国家予算何年分だ」

「ああ、5年分くらいじゃないか」

「それをふいにして、こんな田舎にどうして工場つくったのか」

「それは、もう話しただろう? それに、そこはお前も納得したはずだ」

渋々といった調子で愚痴を止めたスコットは、湯呑から緑茶を飲んでますます渋い顔をした。裕也は秘書を呼んでスコットにコーヒーを持ってこさせた。

「まあさ、ここでお前の会社があるのも、俺が話をつけたおかげだろ。少しくらいは聞いてくれたっていいだろ」

「聞くだけだ、聞くだけだぞ。こっちだって仕事があるんだ」

「うちの機械を使ってか?」

「わが社の機械だ。株式の25%譲渡と取締役の人事権一部譲渡、それから満州でうちが整備した工場の設備と土地の売却で対価は支払っている。それで、新しい仕事って何だい?」

「ん、ああ。お前が提携している、九州飛行機か? そこで航空機の修理とかできそうか」

「お前いつから飛行機屋になった? フォード社が作ってるのは、戦車とトラックと思っていたが」

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