第1部 戦後の混乱と沢城重工
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1926年 ペンシルバニア州オーバーン
「面白いものが見れる」とフォード社の技術者スコット・マーフィーに連れてこられた沢城裕也がそこで見たものは、鉄の支柱に支えられた金属製のおもちゃだった。
そのおもちゃの下では、最後の点検を行っているらしい初老の男性が忙しく動き回っている。周囲に集まった野次馬がはやし立てる声も耳には届いていないようで、一心不乱に作業を手伝う助手の男と汗を流していた。
裕也が作業を行っているロバート・ゴダートを知ったのは、1922年の東京帝国大学在学中に彼が書いた「高高度に達する方法」という論文を読んでからだ。真空中の推進機関としてロケットエンジンの可能性を指摘したその内容は、航空工学を学んでいた裕也には新鮮なものだった。
「スコット、本当にあれが面白いものなのか?」
「お前、本当に論文を読んだのか? だったら、あれがまだ試作のもので、ヴェルヌの宇宙船みたいに月に行けるものなんかじゃないことくらい分かるだろ」
「読んださ。けれど、計算上の結果と実物の差に愕然したっていいじゃないか。それから、ヴェルヌの船は大砲から打ち出したもので、内燃機関を燃やして動くやつじゃないだろ」
「あれ何で動くんだろうな。パカパカ開いたり閉じたりする装置で、引力を操ってるらしいが」
「それこそ分かるものか。俺に分かるのは、航空工学と聞きかじったロケットのことだけだ」
「俺だって、分かるのは車のエンジンと工場の生産ラインのことくらいだ」
裕也の隣に立つ茶髪の偉丈夫は、青い瞳に笑みを浮かべた。180センチは越えていそうな身長の彼の顔は、少年のような輝きで満ちている。よほどこの実験に立ち会えるのが嬉しいらしい。ため息をついた裕也も、気分だけは同じだった。
裕也とスコットの出会いは、大学在学中のことだ。外部講師としてアメリカから呼ばれた教授が助手として連れてきた学生がスコットだった。二人はウェルズやヴェルヌと言ったSF作家の作品を好むというニッチな趣味を通じて意気投合し、海を越えた交友関係を結んでいた。裕也がゴダードの論文を知ったのも、彼の伝手を通じてだ。
偶然、アメリカの工業施設への査察団に選ばれたことをいいことに、裕也はスコットと連絡を取って再会を楽しんでいた。
「お、そろそろじゃないか」
見ればおもちゃ――ロケットの周りから作業員が続々と離れていっている。ロケットに燃料を注入していたタンクが最後に離れて、カウントダウンが始まった。
10(ten)から始まったカウントダウンが0(zero)を刻むと、多くの人々の目の前でロケットは炎を吐き出して支柱から離れた。群衆が一様に空を見上げる。ロケットは10秒にも満たない燃焼時間を終えて墜落した。
あっけないものだっ
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