第1部 戦後の混乱と沢城重工
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先行する航空便で送付した。現物は出来る限りパーツ単位で解体して小分けにまとめられて、日本へと帰る船に載せられた。
「神鷹」に積載された荷物は、各兵器の心臓部となるジェットエンジンやロケットエンジンの主要パーツで、高嶋大尉の鞄に入っている書類も2人の専門領域では複製が難しい部品図面などの重要なものだった。
停戦と共にシンガポールへと進出を始めたイギリス海軍は、すでにドイツから渡ってきた日本の潜水艦が入港した情報を得ていると考えられた。シンガポール港の界隈ではイギリス陸軍のインド兵が盛んに日本資本の倉庫などを洗い出している。
敗戦に等しい戦況での停戦だったため、あまり強く日本側が態度を表明することは出来なかった。
半時ほど待っただろうか。ようやく案内らしい若い水兵が高嶋大尉の下へとやって来た。「神鷹」の船体はすでに岸壁を離れて、シンガポール港の湾内に移動を始めている。
「お待たせしてしまい申し訳ありません、大尉殿」
息を切らせて走り寄ってきた水兵は、まだニキビが見える顔を上気させながら、高嶋大尉の前で敬礼した。高嶋大尉は答礼を返した。
「気にしないでほしい。あの人数を整理するのは大変だっただろう」
「はっ、任務でありますから。では、こちらへ」
「ああ」
水兵は広い飛行甲板の脇にある昇降口から高嶋大尉を船内へと通した。そのとき、岸壁の方で激しいクラクションが聞こえてきた。 何事かと2人は降りていた階段をまた昇って、飛行甲板に上がった。
すでに100mほど離れた岸壁には複数の車両が止まり、中から浅黒い肌の兵士が降りてきていた。なにやら日本人の港湾作業員ともめている様子が辛うじて見て取れた。浅黒い肌の兵士はしきりに「神鷹」を指さしている。
「どうしたのでしょう」
「忘れ物でもあったのではないかな」
「それは勝利とか言う名前でしょうか?」
混ぜ返そうとした高嶋大尉は、水兵の切り返しに狼狽した。なるほど、海軍士官の心得はよく浸透しているようだ。そうだな、と苦笑しながら返答して、大尉は船内へと戻った。
高嶋大尉の焦りは強まった。おそらくあの車両は、イギリス軍のものだろう。少なくとも頭にターバンを巻いた兵隊が居る軍は、シンガポールではイギリス軍しかない。おそらく昨夜の搬入作業に参加した作業員の話を聞いたのだろう。
だから事前の出航差し止め指示ではなく、警備部隊を派遣してきたのは、時間がなくより敏速な手段を選択したためではないか。それだけで済むだろうか。高嶋大尉は焦った。もしかしたら、停船命令と臨検を受けるかもしれない。
「先に艦橋へ連れて行ってもらえないか」
「はい?」
「艦長と話がしたい」
高嶋大尉の焦った様子に気圧された水兵は、道を
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