第1部 戦後の混乱と沢城重工
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「その人の名前は?」
「スコット・マーフィー中佐と名乗っています」
「それを先に言わんか」
久ぶりに再会した青い瞳の友人は、背の低いドアからぬっと社長室に入ってきた。戦争直前までは手紙のやり取りを行っていたが、実際に会ったのはゴダードの実験を見ていらいだった。スコットは前に会った時よりも腹回りが太くなり、丸くなったように見えたが、いたずらっぽい目は変わっていなかった。
「よお、裕也。久しぶりだな? 調子はどうだ」
「どこかの誰かのおかげで大わらわだよ」
「おう、ケンカ売ってきたのはどっちだ」
「油止めたのがわるいんだろ、鉄クズも」
剣呑な空気が部屋に充満した。茶と菓子を持ってきた社員が開いたドアの前で立ち尽くしている。
「まあ、油は見つかったし、鉄クズはまた売ってやるさ」
にやりと笑ったスコットが右手を出した。しかめつらした裕也が憮然とその手を握る。
「俺が言えたことではないが、生きててよかったよ。ただ、軍人をやってるなんて思いもしなかった」
「戦車のエンジンつながりでな。前線にはサイパン島で出ただけで、ほとんど後方さ」
スコットは、裕也が勧めたクッションの利いていないソファに座り、足を組んだ。変わった空気にやっと動きが取れるようになった社員が、茶を出して足早に部屋を辞した。
把手のない湯のみに入った緑の液体を覗き込んだスコットは、怪訝な表情を浮かべた。
裕也は、彼の長袖から垣間見える左手に薬指がないことを気付いたが、それを尋ねることはしなかった。察するだけで十分に分かることだった。
もしかしたら自分のところで生産した武器によるものかもしれない。それを聞くことを、裕也はためらった。
「なあ裕也、ここはいい土地だな」
藪から棒にスコットが話し始めた。
「まだまだインフラの整備は必要だが、開発に余力がある土地、豊かな資源、使い潰しの利く労働力。北東アジアの中心を占めて、陸上交通の結節点でもある」
「それに油田も見つかった」
「ああ。そのおかげで、ステイツと日本が戦争する理由のほとんどがなくなった」
「足りないものがお膝元にあったとはね。満鉄の知り合いが驚いていたよ。
内地にとっては軍事予算でにっちもさっちもいかずに、敗北寸前のところで見えた希望だったから色々動き回る輩がいたらしい。
まあ、どっちにしたって満州の主人は入れ替わり、ここの機械もアメリカに献上となっては、もう関係のある話ではないがな」
「こっちだって、日本の大陸利権の買取りで結構な金額を出してるんだぜ? そう言ってくれるなよ」
「おかげで社員を路頭に迷わせるこっちの身にもなってみろ。日本政府からの購入代
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