悪魔の島編
EP.19 S級クエスト解決
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……お前で良かったよ」
惚気と知らずそう呟き、ワタルはグレイたちに話し掛けられるまで、じんわりと頬が熱を持ったのを隠そうと、月を見上げているのだった。
「(これでいい……そのはずだ)」
紫色の月を壊すために、投擲力を飛躍的に向上させる“巨人の鎧”に換装し、破魔の効果を持つ“破邪の槍”を手にしたエルザはナツを従え、見張り台に立ちながら考える。
落とし穴の中での出来事は彼女には刺激が強すぎた。
痺れる思考の中、感情のままに目をつむったエルザ。視覚を断ったからこそ、脳髄をくすぐるワタルの僅かな息づかいは、冷静になった今でもはっきりと記憶に残っている。
自分は骨の髄までワタルに惹かれ、惚れている――そう改めて認識するのには十分だった。
彼が自分の行為に応えようとした時、自分は歓喜した。それは否定しないし、できない。現に呼び掛けたナツを恨めしく思う感情はあった……だが、どこかで安堵している自分がいたのだ。
いったい何故なのか。分からず悶々としていたのだが……冷静になった彼女の思考は、その答えを案外すぐに導き出してくれた。
依頼そっちのけで自分の色恋沙汰にうつつを抜かすなど、筋を通す事を美徳とするワタルが良しとするはずがない。
ではなぜ彼はそうしようとしたのか――その理由にエルザは心当たりがあった。
自分が知るワタルの繊細さは日常生活に支障が出るほどのものではないが、戦闘のような非日常の中ではそうもいかない。
悪環境の中、偶々自分が見ていた所では彼の繊細さが実害となって露呈しなかっただけで、実は彼が精神に影響を及ぼす何かを抱え込んでいたとしたら?
もしそうなら、彼が自分と一緒に落とし穴に落ちてしまうほど疲弊してしまったのは、自分にも原因がある。『ワタルのいう事なら』『きっと何か考えがあるのだろう』……そんな風に理由を付けて、彼に任せて……いや、依存してしまう事がある。今回は、合流の際に僅かに漂ってきただけの香水の香りで抱いた嫉妬は彼の精神に負担を掛け、それがワタルらしくない行動を取らせてしまったのではないか。
少し強引ではあるものの、エルザはこう考え、ワタルの重荷になってしまったと思い込んでしまった。
もちろん、先ほどは『エルザへの想いですらワタルの心に負担となって表れた』と説明したが、それはワタルの精神の損耗の中では僅かな割合だ。大部分はウルティアが原因である。
しかし、彼女は正義感が強く、頑固だ。ワタルを目標にしている彼女にそれを説明したところで、自責の念が強まる事はあっても弱まる事は無いだろう。
ワタルの隣を歩くにふさわしい存在になりたい。
それがエルザの根幹だからこそ、彼女はワタルより早く興奮と羞恥の熱から覚めたのだ。
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